国内主要カーメーカー8社の08/3期決算が出揃った。これまでは円安や中国を中心としたアジア、南米など、新興国でのモータリゼーションを追い風に業績拡大が続き、終わった期の業積も各社とも堅調となったが、現在進行中の09/3期はほぼ全社が売上は前の期に比べ、横這いから若干の減収を、利益はトラックや軽自動車に集中する会社を除く全社が2桁以上の減益を見込んでいる。好調であった業界業績は踊り場を迎えるが、注目されるのは登録車が中心のトヨタ、日産、ホンダ、マツダ4社の営業利益は前の期に比べ30%前後の大幅減益見込みでほぼ同じレベルで並んだことである。
自動車用鋼板価格の値上げを迫る新日鉄への防衛、特定の会社の株価への影響を避けるべく、徒党を組んだのではないかとか、つまらぬことが頭をよぎったが、冷静に考えると4社とも北米依存が強く、対米ドルでの円高が短期間で10円以上進んだこと、そして僅か一年で倍以上になり、まだ上がり続ける原油価格などを踏まえれば、北米業績の会社業績への影響度が高いところへ、北米業績予想の前提となるキーファクターが大きく動いてしまったのだから各社とも見込みが似通ったのは当然だろうと至極納得している次第である。
サブプライムローン問題でお金の流れが大きく変わった。金利低下でドルが売られ、信用収縮で先進国市場に魅力的投資対象が少ない中、投機資金は原油や金属、穀物などに向う。そもそも新興国での旺盛な実需がベースにある中、一次産品価格はスパイラル的に上昇、その富みは中東、ロシアなど資源国の貿易黒字、外貨準備、そして、政府系ファンド(SWF)となり、米国の財政赤字のファイナンスや欧米金融機関の支援に向う。お金の流れに伴い物や人の流れも変わる。北米ではSUVや大型バイクが売れなくなり、資源国ではトラック、SUV、高級車両が売れる。国内や北米で車が売れなくなったが新興国や資源国などで売れる。だから、カーメーカーの今期売上予想は横這い程度で落ち着いたのであろう。あとはコストを下げ、成長市場での売上を伸ばせば業績は再び成長トレンドに戻れると考えたいが、市場が広がると設備投資も増えるし市場開拓にお金もかかる。こうした状況を踏まえカーメーカー各社は今期も高水準の投資継続を表明している。また、トヨタの金融子会社が先日マレーシアリンギ建てのイスラム債券(スクーク)発行を発表したが、資源国、新興国市場注力の表れとして注目される。
サブプライムローン問題でカーメーカーを取り巻く環境が大きく変わった。1つは資源高に伴い、鋼材やアルミ、樹脂、ゴムなどの材料価格の上昇圧力が強く、円高との二重苦に直面し、この経験はかつて無いと言うことである。各社とも使用材料の削減や各種費用の圧縮で対応する構えだが、日産のゴーン社長が値上げを表明したようにそれでも厳しいと言うのが本音であろう。もう一つは、順風満帆であった巨大な米国自動車市場が縮小に向い、イスラム圏やロシアを中心とした資源国市場で欧米勢も含めた新たな戦いが始まっていると言うことである。取り組むべき課題が多様化する一方で、環境対応、引き続き需要旺盛な新興国への対応強化も同時にやり遂げねばならぬし、移民で人口が増える中、中期的には復活が見込める魅力的な北米市場をおろそかに出来るわけではない。かつてのように厳しい現実を克服することが日本のカーメーカーの体質強化や環境技術の一層の発展などに繋がることを願って止まないが、潮目が大きく変わる中で本当に強い会社、グループとそうでないところが分かれてくるような気がしている。あとから振り返ると、サブプライムローン問題がグローバルレベルでの業界再編のきっかけになったと言う日が訪れるのかもしれない。