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アナリストコラム

株主還元策 -鈴木崇生-

2008年05月02日

決算発表只中である。株式投資に興味がある人ならば、誰でも気になるシーズンであろう。

企業の業績に関心がおありかと思う。株価が上がるのか、下がるのか。この企業へ投資してよいのか、など。
加えて関心が高いと思われるのは株主還元策である。増配、自社株買いなどに関心の高い方が多いように見受けられる。
しかし、ファイナンス理論の詳細は避けるが、増配や自社株買いなどが行われても株価が上がる要因とはなりえない。むしろ増配は株価を下げるし、自社株買いが行われても株価は不変であるはずである。ではなぜ株価が上がるのか。1つには長期投資ではなく短期しか考えない投資家の資金を呼び込むからである。また、市場が「この材料を好感して株価が上がるのでは」との心理に支配されやすいことも要因である。

株主還元策として自社株買いに比べ増配が要求されることが多く、また企業側が増配によって株主還元に応える理由はいくつかある。個人投資家にとり身近と思われるものを紹介しよう。
1つは対象の問題だ。増配は全ての株主へ均等に行われるものだが、自社株買いは応募者へのみである。自社株買いは公平性を欠く側面がある。もう1つは内部留保をしても成長が促進されないのであるならば、株主へ利益を帰属させるべきだという考え方である。機関投資家からの要求が強い側面がある。企業は資金を投下して事業を営み、リターンを得る。必要額以上は企業が持っていても意味がないため他へ投資する機会を株主に与えるべきであろう。しかし、企業の内部留保は高まる一方、配当性向は米国と比べて6ptの差が空くなど低い。なおかつ見合った成長が得られているとも思えない。生命保険協会によれば平成9年には62.7兆円だった企業の内部留保は平成18年に125.8兆円にまで膨らんでいる(注:上場している全ての企業の総計ではない)。再投資による積み重ねであれば問題はないのだが。

同じく生命保険協会が企業と投資家に実施したアンケート「望ましい配当スタイル」によると、約6割の企業は株主還元策として安定した増配に強い意欲を持つようだ。減配を避ける、安定増配が買収防衛策として機能すると考える側面がある模様である。結果として配当性向が上昇せずに内部留保が積みあがる結果となっている。しかし、内部留保で積まれた資金に対する説明(将来のリターン)を十分に行える企業は乏しいように感じられる。不必要な内部留保を行うくらいなら業績連動型の配当でよい、同アンケートで投資家の答えは業績連動型が7割を占め、乖離が見られる。今後この差を埋めることが企業には求められるであろう。

なお、私は、個人投資家は機関投資家に比べ増配要求が強くてしかるべきだと考えている。内部留保を高めることに対し、企業側に多く見られる説明は将来への備えである。ただしこの資金、いざ使う段になってその都度株主の総意を得るものではない。大体の場合において取締役会の決議に基づき使用される。極端に言ってしまえば自分に帰属すべきお金が「なんでそんなことに使うんだ」という使われ方もありうるわけだ。所有比率の低い個人投資家にとっては自分の意見は反映されにくい。

会社説明会の席上で個人投資家比率を意識する発言が多くなったように感じる。ならば、納得の行く株主還元と内部留保の使途の説明を求めたいものだ。

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