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アナリストコラム

川上インフレ、川下デフレ -佐藤謙三-

2008年04月25日

日本経済は、原材料価格が上昇する一方最終材価格が低迷する「川上インフレ、川下デフレ」状況にあると言われてきた。日銀が4月中旬に発表した需要段階別の企業物価指数を見ても明らかであり、08年3月の素原材料指数が148.8に対して、最終消費財は100.6、特にその内の耐久消費財指数は91.8となっている。2005年平均が100であるから、3年間ほどで原材料価格が約5割上昇する間に、耐久消費財は逆に1割近く下落していることになる。

消費者物価指数を見てもこの傾向が見られ、4月25日に発表された3月の消費者物価指数は総合指数が前年同月比1.2%の上昇と約10年振りの高い上昇となっているのに対して、食品(酒類除く)とエネルギーを除く総合指数は0.1%の上昇にとどまっている。円高が進展しているにもかかわらず円ベースでの原油や非鉄金属等の資源価格、穀物価格(広義ではエネルギー関連とも言える)が急騰しているのに対して、実際の物価指数が思ったほど上昇していなかったように思えるが、このギャップも限界に近づいているように思う。「川上インフレ、川下デフレ」の基調が変わるとは言えないまでも、4月に食品の値上げが相次いでいることや足元のエネルギー価格の上昇を見る限り、4月以降の消費者物価指数や企業物価指数の一段の上昇は避けられそうにない。

原油価格が昨年前半の水準の2倍以上となる1バレル120ドル台に迫り、素材産業の悲鳴が聞こえるが、4月上旬に決定した08年の鉄鋼用原料炭の価格交渉結果も大きなショック。年初には前年比3?5割程度の上昇というのがコンセンサスになっていたように思うが、3月には2倍程度はやむを得ないという状況となり、最終的には3倍となった。1トン当たり約100ドルの原料炭が約300ドルとなったもので、鉄鋼業界は豪州等から約8,000万トンの原料炭を輸入しているから、原料炭のみで1兆5,000億円(大手高炉メーカーの08/3期の経常利益合計に匹敵)を超えるコストアップになる計算。

さらに、鉄鉱石が前年比7割以上の価格で決着するとの観測もあり、これに鉄スクラップ、原油価格、運賃の上昇等を加えれば鉄鋼業全体の年間のコストアップは3兆円を超える見通し。鉄鋼業界がコスト削減等で吸収できる金額ではなく、建設や自動車等の各業界向けにトン当たり3万円程度(40%近い上昇率)の値上げを要求すると見られているが、各業界も生産性向上やコスト削減等で吸収するにも限界があり、最終製品に転嫁される可能性が高い。

注:企業物価指数は企業間で取引される商品の価格水準を示す指数。従来の卸売物価指数に代わる指標であり、国内企業物価指数、輸出物価指数、輸入物価指数がある。日銀が4月中旬に発表した3月の国内企業物価指数(2005年=100、速報値)は106.7と前年同月比3.9%上昇、1981年の第二次オイルショック時に次ぐ27年振りの高い水準となっている。年度ベースで見ると、04年に前年度比1.5%と7年振りに上昇して以来、05年2.1%、06年2.1%、07年2.2%と上昇している。

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