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アナリストコラム

H&Mがやって来る

2008年04月18日

今秋、いよいよ世界最大のアパレルブランド、H&Mが日本に上陸する。出店先はヤングファッションの発信地・原宿とトレンドに敏感な人が集う銀座である。原宿店は竹下通りに近い明治通り沿い、銀座店はユニクロや同じく世界的大手ブランドZARAが並ぶ中央通り沿い、といずれもベストロケーションである。

ここで、H&Mについて簡単に説明する。H&Mは「Hennes&Mauritz(へネス&モーリッツ)」の略称であり、同社の正式なブランド名である。1947年スウェーデンで創業後、海外への出店を積極化させ、現在では28カ国に1,500店舗を展開する。07年11月期の売上高は1兆3,663億円、営業利益は3,205億円で、単一業態の比較では米GAP、スペインのインデックスのZARAをしのぐ世界最大のアパレル業態である。
H&Mの強みは欧州ブランドコレクション並みの最新ファッションをユニクロ並みの価格で販売することである。日本ではカジュアル衣料大手のポイントが展開する「ローリーズファーム」やユナイテッドアローズの「グリーンレーベルリラクシング」が照準を置いているミッドトレンドマーケットがターゲット層になると思われる。しかし、今回出店する銀座店のようにデザイナーズブランド店が多く立地するエリアに店舗を構えるなどして、トレンドマーケットの顧客もターゲットにしている。

商品低価格化を支えるのは安価な素材を大量発注により低価格で仕入れ、世界のベストロケーションで売り切る効率経営である。売り切れてしまった人気アイテムを追加生産せず次から次へ新商品を投入する。「今、買わないと、もう買えないかも!」と顧客の購買意欲をそそる商品企画力とオペレーションで在庫を積み残さない長けた管理手法である。
米国進出の際にはニュージャージー州に物流センターを構えた後、瞬く間にニューヨーク州、ニュージャージー州に数十店舗を出店し、ドミナント化を図ったという経緯を踏まえると、09年末には東京圏でも同じような状況が繰り広げられているのかもしれない。

唯一、懸念をあげるとすれば、同社の安価な素材とラフな縫製が品質チェックに厳しい日本の消費者にどの程度、受け入れられるかである。実際、私も2003年にマンハッタンの店舗にいそいそと買い物に行ったものの、ペラペラの生地とすぐにほどけてしまいそうなゆるい縫製に購買意欲が萎えてしまった記憶がある。日本進出を先に果たしたZARAも進出当初は品質改善を本国に再三要求した。しかし、この高収益力を誇るGIANT企業が無策のまま、日本市場に乗り込んで来る訳もなく、同社の日本語HPにはそんな懸念を払拭させる説明が載っている。

http://www.hm.com/jp/#/opening_default_startpage/

国内では消費の成熟化や多様化、インターネットによる情報の普及などにより消費の二極化が進んでいる。これは消費者の単なる二分に止まらず、消費者一人一人の行動においても選択と集中が進み、食事は安さを求めてファーストフードで済ませる一方、衣料品には価格が高くても付加価値の高いトレンドファッションを求めるなど、メリハリの効いた行動へと繋がっている。このため、H&Mの上陸により国内の衣料品マーケット全ての層が打撃を受けることはないだろう。むしろ、衣料品業界全体でみれば、低価格で叶うファッションとその話題性からこれまでファッションに無頓着であった人を振り向かせるきっかけとなり、09年は業界全体が活性化していることも考えられる。しかし、同社の上陸は同じミッドトレンドマーケット層をターゲットにするポイントや原宿、渋谷で小さなショップを展開する企業には脅威であることに変わりはない。私如きが言うまでもないことではあるが、今一度、価格・品揃えなどの商品戦略からブランドポジショニング、店舗展開、さらには在庫管理、物流調達などに至るまでを見直して頂きたいと思う。

H&Mが業態ベースの売上規模で、かつての雄であったGAPを追い抜いたように、H&Mも資本主義の競争の下、他のブランドに追い抜かれる日が必ずや訪れる。今の国内企業には少子高齢化や過当競争に加え、スウェーデン艦隊上陸と頭の痛いことが山積みである。しかし、諦めない限り、不可能なことはない。日本の企業から世界最大のアパレル小売りが誕生することを切に願う。

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