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アナリストコラム

環境問題とカーメーカーの動向に関して -高田悟-

2008年04月04日

本年7月に洞爺湖でサミットが開催されるが、地球温暖化を中心とした環境問題が主要議題になる見通しだ。国境を越えたレベルでの環境問題への議論が始まり久しいが、最近ではメディアに環境という言葉が登場しない日はないくらいだ。こうした中、ガソリン自動車が排出するCO2が温暖化の主原因であることから自動車の排ガスに対する規制は強まる一方で、折からの原油高も重なり、環境、省エネ対応、脱ガソリン車(環境対応車)の開発、商業化への取組みが世界のカーメーカーの間で一層、加速し始めている。

ただしその取組は地域毎にずいぶんと異なるようだ。欧州ではディーゼルカーが復活した。現在、新車販売の5割以上がディーゼルカーで7割を超える国もある。排ガスに含まれる有害物資の量はガソリン自動車に比べ高いが、燃料の軽油はもともとCO2がガソリンに比べ少ないことに加え有害物質の排出を減らす技術が進歩したことが背景だ。また、デンンソーやボッシュが得意とするコモンレールシステムで低騒音、高機能エンジンの搭載が可能となった。このため日本のカーメーカーは欧州向けにはディーゼルカー開発を強化している。中南米ではサトウキビを利用し生産されたエタノールを燃料としたエンジン車両の普及が進む。エタノールはガソリンと比べ燃費は悪いが価格は安く、CO2が出ないことに加え栽培により半永久的に利用可能なことが特徴だ。北米、日本は環境対応車の主流が何かはよく見えないが、ガソリン自動車と電気自動車の長所を組み合わせたハイブリッド車に人気が集まっているようだ。ハイブリット車でトヨタやホンダに先行されたGMや日産自動車は電気自動車で追撃する構えだ。筆者個人としてはガソリンに比べ燃費のよいクリーンディーゼル(環境対応が進んだ最近のディーゼルエンジンの呼名)に興味をもつが、先日、トヨタとホンダが中期的な増産計画を発表したハイブリッドカーが当面日本国内では環境対応車の主流となりそうだ。

日本の乗用車にディーゼルカーを見かけなくなってもう20年程となる。ディーゼルは「黒煙」、「うるさい」という悪いイメージに加え、NOx、粒子状物質など有害物質の排出量が多いことから、公害対策として所有者の税負担が強化された。また、大都会東京を走る回る商用車にたまりかねた石原都政で厳しい排ガス規制が施されたことなどがこの背景だ。ロンドンからM2に乗り、ドーバー海峡を越え、アントワープ、アウトバーンでケルン、フランクフルト、ミュンヘンそしてアルプスへという欧州、中核都市を巡る道中には渋滞もなく、森や畑といった緑ばかりの印象だ。中核都市はせいぜい広島ぐらいの規模であり、都市部に入っても緑が多く日本の地方都市を訪問した感覚で東京のような雑然した大都会はない。こうした環境ではクリーンディーゼルの復活も頷けるような気がする。ブラジルはサトウキビの生産大国である。アマゾンのジャングルを背にした広大な畑が目に浮かび中南米でエタノール車が普及するのも自然な成り行きであろう。

かつて、日本のカーメーカーは貿易摩擦、円高に苦しみ、現地化でこれを乗り越えた。資源小国であるがことが低燃費車両の開発を促し、世界の自動車産業を牽引する立場を実現した。石油という化石燃料が有限の中でアジアを始めとした新興国で急速にモータリゼーションが進む。環境問題に原油高が重なりガソリンに代わる次世代の車は何かが今、真剣に問われている。ただし、その答えは一様ではない。適材適所があってしかるべきだ。また、現在有力な次世代カーは環境問題を根本的に解決できるわけではない。電気自動車とて発電には化石燃料が必要だ。並行して次世代に続く自動車開発が求められている。こうした中、カーメーカーにはこれまで以上に広範囲で高い技術力、そして部品メーカーを含めた組織力が求められている。トヨタが昨年自動車生産台数でGMを抜き世界1位となった。今年は販売台数でもトップになることが予想される。そんな最中の4月2日に富士重工業への出資拡大が発表された。他社の経営資源を活用し、環境、新興国対応を急ぐのが理由と聞く。トヨタとてもう自前で全て出来るわけでなく、他社の力を有効に活用する柔軟さが求められているようだ。環境問題と石油枯渇を前にして業界、そして業界、国境を越えての再編が今後進む可能性が高まってきた。こうした中、投資の視点からは大きなチャンスが出てきたとも言えそうだ。

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