日経平均は昨年6月?7月の18,000円台から直近では約3割下落した水準に落ち込んでいる。日経平均の予想PERは6日終値で14.66倍であるが、予想PER10倍を割り込んでいる銘柄も少なくはない。サブプライム問題から派生する米国の信用収縮の可能性、日米金利差の縮小による円高、さらには中国リスクなど投資家の安全資産の逃避が指摘されているが、現在の株価下落をもたらしたのは投資家心理・行動なのか、それとも経済や企業業績などファンダメンタルなのかについて株式のリスク・プレミアムの観点から考えてみたい。
インプライド・リスク・プレミアムという分析手法がある。
リスク・プレミアムは上乗せ金利と同じような概念だが、現在進行形のものは債券と異なり株式では直接観察することは出来ない。そのため、現在の株価が妥当であるという前提から逆算したものが、インプライド・リスク・プレミアムである。日経新聞に掲載されている各種指標から比較的簡単に計算可能であるが、ここでは説明を省略する。ご興味のある方は、「日本経済のリスクプレミアム」(山口勝業著:東洋経済新報社)の第6章をご参照いただきたい。
この文章は、インプライド・リスク・プレミアムに関する基本概念・計算手法をともに同書に学んでいる。
(本当は長期のデータが求められるのであるがデータ入手の関係から2005年1月から2008年2月までの毎月の月末値データを使用して考察した。)本年2月末の株式のインプライド・リスク・プレミアム(以下、リスク・プレミアム)は、7.05%。この3年余りの間は決算端境期のイレギュラーと思われる値を除けば6%?7%のレンジにある。比較的短期の動向では株価が上昇過程にあった2006年5月から2007年3月ころまでは6.5%前後に位置していたのが、2007年6月頃から7.0%前後に上昇している。直近の株価下落局面については、投資家の要求(=リスク・プレミアム)が高まったことが影響したことは間違いなさそうだ。しかし、日経平均の予想PERが20倍から15倍に下がったことはこれだけでは説明できない。何故なら株式益回りでは1.6%の差に相当するからである。これは予想ROEと予想配当性向の関係にありそうだ。予想ROEは昨年6月の10.22%から本年2月には9.18%へと低下している。一方で配当性向は24.6%から27.3%へと上昇している。ROEが低下するなかで配当性向が上昇していることは成長期待が鈍化していることを表している。
別の観点から見てみよう。日経平均の予想EPS(新聞に掲載されている日経平均を予想PERで割ったもの)は、昨年10月末945.63円から減少傾向をたどり、この2月は902.06円と4.6%減少した。明らかに企業業績の先行きが悪化している。
日経平均の実績EPSで割った伸率は、2月は僅か2.72%である。季節性があるので単純に比較は出来ないが、同伸率の2007年2月は9.19%、2006年2月は31.8%、2005年2月は48.83%であった。こうした点から現在の株価低迷は投資家行動の変化(株式リスクプレミアムの上昇)だけでなく、市場がファンダメンタルの悪化を強く懸念しているものであると言及できよう。