80年代後半、転換社債(CB)がまだ一般的でなかった頃の話です。当時、証券営業(個人)の現場にいた私は、既発行の額面割れ転換社債をお客さんに奨めていました。
当時、オカモトなど優良企業の転換社債でも額面(100円)に対して90円前後の価格になっていました。償還まで7~12年くらいありましたが、クーポン(金利)は0.9~1.2%くらいあり、最終利回りで2%程度は確保できるものが比較的多くありました。
何故、大きく額面割れしていたかというと株式への転換価格を株価が大きく下回っていたからです。
2%というのは当時銀行の定期預金が3%台であったので、単純に債券金利としては魅力的なものではありませんが、株価が上昇すればキャピタルゲインを得られる可能性があり、当時は株式市場が上昇過程にあり、値上がり益を得られるチャンスが見込めました(実際に購入いただいた方はそのメリットを享受できた方が多かったと思います)。
お客さんに、転換社債とは何であるか、からまずは説明し、発行会社が破綻するリスクが小さいこと、株価が転換価格を超えた場合にはどのくらいの値上がりが見込めるかというシミレーション、あるいは値上がりが無かった場合のリスク。最悪でも7~12年後に100円が返ってくる(だからマイナスにはならない)、株式と同じように上場しているので何時でも換金は可能、等々という話をしたのですが・・・・多くの方は話の途中で「そんなウマイ話はあるはずない」という反応でした。
しかし、熱心にきちんと話を聞いてくれた方は、その後、自分で調べたり、(その方が信用できると思われる)他の方に相談したりして、最終的には、ご購入に繋がるケースが多かったように思います。
ここで申し上げたいインプリケーションは、「ウマイ話は最後まできちんと聞け!」だと思います。
金融教育をされていらっしゃる方の中は、「ウマイ話なんか絶対無い!」と仰る方もいらっしゃいますが、何が「(本当に)ウマイ話」で、何が「(詐欺も含めて)ウマクない話」であるのかは、色々な話を聞いてみないことには経験として蓄積されません。
入口だけで判断するのが一番危険だと思います。それは何故か? 入口で判断する人の基本的な態度は、相手が信頼できるかどうか、という印象に偏っています。
だから、きちんとスーツを着込んだ爽やかなイケメンの大手金融機関の営業員に皆さん(合法であるがロクでもない金融商品を)掴ませられるのではないでしょうか?
ブランド(入口)ではなく、商品の中身をきちんと吟味することが重要であり、中身を吟味できる素養を身につけることが本来的に求められる教育ではないでしょうか?
“ウマイ話”かどうかを最後まで聞くことを避けていたのではなかなかそうした素養は身につかないように思えます。
日本人は欧米に比べてブランド信仰が強いといわれて久しいですが、結局は自分自身で価値判断をすることが出来ない方が多いということの裏返しではないかと思います。
実際に、日本人は欧米人と比較して、内容ではなく相手との関係性で判断(意思決定)をする傾向が遥かに高い、という学術研究結果も多数あります。
そうした傾向が生じるのは、結局は限られた人間関係の中で生活していることが大きく影響するようです。何でもかんでもとは申しませんが、先入観を持たずにちゃんと人の話を聞くことは大切ですね。
蛇足ですが、世の中に「ウマイ話」は無い!という金融教育は、結局は大手金融機関を利しているようにも思えるですが・・・・果たして気のせいでしょうか。