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アナリストコラム

景気と長短金利の関係を考える –客員エコノミスト 〜塚崎公義 教授 –

2021年10月01日

■短期金利を決めているのは日銀
■景気変動は短期金利の変動要因
■金融政策の効果は実質金利で判断
■景気の予想で長期金利が変動
■長期金利が景気に影響・・・自動安定化装置

(本文)
■短期金利を決めているのは日銀
物(財およびサービス、以下同様)の値段は需要と供給が等しくなる所に決まる、というのが経済学の大原則である。金利についても、考え方としては同様であり、「借りたい人の借りたい金額と貸したい人の貸したい金額が同じになるように金利が決まる」といったイメージである。

ただ、短期金利の場合には、巨大なプレーヤーである日銀の影響が非常に大きいので、事実上は日銀の思ったように金利が決まっていると言って良いだろう。

短期金利といっても色々あるが、本稿で短期金利というのは銀行間で短期間だけ貸し借りされる資金の金利の事であり、具体的には無担保コールレート(オーバーナイト物)を指している。

日銀は、短期金利の目標を決め、実際の金利がそれより高ければ金を貸し、実際の金利がそれより低ければ金を借りるという調節によって金利を目標に近づけるように毎日努力しているのである。

実際には金の貸し借りではなく、国債の売り買いが行われているわけだが、効果としては金を貸し借りしているのと同じである。国債を買えば代金を支払うので売り手に金が入り、国債を売れば代金を受け取るので買い手の資金が減るわけだ。

■景気変動は短期金利の変動要因
日銀は、景気が悪い時には金利を下げて「金利が下がったから、借金をして設備投資をしよう」という企業が増える事を期待し、景気が過熱してインフレが心配な時には金利を上げて「金利が上がったから、借金をして設備投資をするのは待とう」という企業が増えることを期待するのである。

つまり、景気が悪ければ金利が下がり、景気が良ければ金利が上がる、というのが短期金利の決まり方という事になるわけだ。

金利を上げ下げする事を金融政策、金利を上げる事を金融の引き締め、金利を下げる事を金融の緩和、と呼ぶのだが、最近では金利がゼロのままなのに金融の追加的な緩和という事が行われている。これは、金利ゼロで銀行に資金を貸す(銀行の持っている国債を購入して代金を支払う)という行為である。

余談であるが、現在はマイナス金利だと言われている。日銀に預金すると金利をとられるので、それよりは他行にマイナス金利で資金を貸した方がマシだと考えている銀行が、マイナス金利で資金を貸し借りしているわけだ。

学者たちはマイナス金利の影響について色々と議論しているし、マイナス幅が大きければ様々な影響が出てくるのであろうが、今のところはマイナス幅が小さいので、金利はゼロだと考えておいて良かろう。

■金融政策の効果は実質金利で判断
ちなみに、金融を引き締めると設備投資をする企業が減るわけだが、どの程度の金利にすれば良いのであろうか。それを判断する際に重要なのが実質金利というものである。

これは、金利からインフレ率(より正確には人々が予想している将来のインフレ率)を差し引いた値である。金利がインフレ率よりも低ければ、設備投資をする企業が減らないからである。

今の日本では、インフレ率はほぼゼロ%であるから、金利10%であれば借金をして設備投資をする企業はほとんど無いであろう。しかし、インフレ率が20%の国であれば、金利10%で借金をして今の値段で工場を建てる方が、来年になってから20%高いコストで工場を建てるより得である。

したがって、金利を20%以上にしない限り、設備投資をする企業は減らず、景気の過熱は止まらず、インフレは更に加速してしまうかも知れないわけである。

■景気の予想で長期金利が変動
長期金利というのは、長期間の貸し借りをする際の金利のことである。住宅ローンの固定金利型をイメージすれば良いだろう。借り入れの際に「3年経ったら返します。その間、毎年金利は4%払います」といった契約をするわけだ。

その際の金利は、どのように決まるのだろうか。それは、人々が将来の短期金利を予想して、その平均になるように決まるわけだ。今の金利は0%であっても、来年以降の金利が6%になると予想しているとしよう。

貸し手は「1年契約を3回繰り返して3年貸していると6円の金利を2回受け取ることになるので100円が112円になる。それなら、3年間の貸出に際しては金利を4%以上にしなければ」と考える。

一方で借り手は同様に金利を4%以下にしなければと考える。したがって、両者が合意するためには金利は4%に決める必要があるわけだ。

余談であるが、現在は日銀が長期金利も事実上決めている。しかし、これは金融が異常に緩和されている特殊な状況下のことであるから、普通には日銀は長期金利は決めずに、人々の予想によって決まると考えておいて良いだろう。

■長期金利が景気に影響・・・自動安定化装置
企業が設備投資をしたり、サラリーマンが住宅ローンを借りて家を建てたりする際には、長期金利が使われる事が多い。したがって、景気に影響するのは長期金利だ、と考えて良いだろう。

ということは、人々が「将来は景気が良くなって日銀が金融を引き締めるだろうから、短期金利は高くなるだろう。ということは今の長期金利は高いべきだ」が考えると、長期金利は高くなり、人々は設備投資をしなくなるわけだ。

人々が景気の過熱を予想すると人々が設備投資をしなくなるので、実際には景気の過熱がそれほど酷くならずに済む、といった事が起きるのだ。長期金利が景気の自動安定化装置として働いている、というわけである。

本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係が無い。また、わかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。


(9月24日付レポートより転載)

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