メニュー
アナリストコラム

景気を知るには月例経済報告を見よう –客員エコノミスト 〜塚崎公義 教授 –

2021年11月12日

■日銀の展望レポート等々は初心者には難解
■月例経済報告は一般人対象でわかりやすい
■景気のイメージを掴むだけなら5分で十分
■慣れた人には多くのグラフがわかりやすい

(本文)
■日銀の展望レポート等々は初心者には難解
日本の中で、優秀な景気予想屋がもっとも多いのは日銀である。どの程度金利を上げ下げしたら失業率とインフレ率がどうなるか、という事を予想するために、優秀な人材を大勢集めているからである。

最近はゼロ金利が続き、量的緩和政策などというものが採用され、美人投票的に為替レートや株価が動く事を利用して景気を回復させよう、といった事も行われているので、本来の景気予想屋の仕事が行えていない面もあろうが、それでも彼らが懸命に作っているのが「展望レポート」である。

したがって、景気予想屋たちが見るとレベルの高い予測が披露されているわけであるが、書き手が想定している読者がプロの予想屋等であるために、一般の投資家等が読むには難解すぎるきらいがある。

金融政策が株価等を大きく動かすので、日銀の考え方を知りたいという投資家の希望もわかるが、株価予想屋が日銀の展望レポートを解説してくれるだろうから、不慣れな人はそちらを見た方が効率的であろう。

民間の調査機関が出しているレポートは、景気予想屋が書いたものと株価予想屋が書いたものがあるので、株式投資の参考にするなら後者を選べば良い。見分け方は、金融政策について詳しく書いたものが後者である。

株価予想屋のレポートの中には、プロの投資家を対象にしたものと一般の個人投資家を対象としたものがあるので、色々読んでみて理解できそうなものを選べば良かろう。予想が当たるか否かは何とも言えないが、日銀の考え方については概ね正確に紹介してあるはずである。

■月例経済報告は一般人対象でわかりやすい
かつては日銀と並ぶ景気予想屋集団だった経済企画庁が、今は内閣府の一部となっており、今でも優秀な景気予想屋が大勢いる。彼らが作っているのが月例経済報告である。

これは、日銀の展望レポートとは異なり、一般人を対象読者としているので、わかりやすい。初心者が読んでも、大筋は理解できるのではなかろうか。何と言っても閣議決定される必要があるので、閣僚に理解できるように書かれているのだから(笑)。

忙しい投資家が5分で景気のイメージを掴みたいと思った時には、まず表紙を見よう。景気の現状が2行か3行で大きな文字で書いてあり、その下に数行の予測が載っている。

ちなみに、10月の月例経済報告の表紙冒頭には「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響により、依然と して厳しい状況にあるなか、持ち直しの動きが続いている ものの、そのテンポが弱まっている。」とある。

余裕があれば、ページをめくっていくと総論という1ページの文章が載っているので、ここも読むと良いだろう。

これだけでも良いのだが、月例経済報告には主要経済指標というファイルもあって、そこには便利なグラフが多数載っているので、そちらも見てみよう。

最初はGDPである。GDPの成長率は、景気を見る上で最も重要な数字なのであるが、残念なことに振れやすく、初心者が見ても何が起きているのかイメージするのが難しいかも知れない。

そこで、普通の人はあまり注目しないであろうが、筆者は「GDPギャップ」というグラフをお薦めしている。プラスならば景気が良い、マイナスならば景気が悪い、という水準をイメージできると同時に、グラフ全体の形を見ると景気が改善方向なのか悪化方向なのか、といった大雑把なイメージも掴めるはずだ。

もっとも、これはGDP統計をもとに作っているので、細かい動きを気にするのではなく、大きな流れや大雑把な水準の把握をすれば良かろう。

もうひとつ、参考のところに景気動向指数のグラフが載っている。その中でCIの一致指数というグラフを見ると、景気の状況がイメージできる。もっとも、これは物の動きのデータを主に用いて作っているので、新型コロナでサービス業が悪いが製造業は悪くない、あるいは反対に輸出が不振で製造業が悪いがサービス業は悪くない、といった場合には若干ミスリーディングかも知れない。

もう一つ、一般の人が景気を判断する際に最もイメージしやすいのが失業率であろうから、失業率のグラフも見ておこう。失業とインフレのない経済を目指すことが政策目標として重要なので、経済政策がうまく行っているか否かを判断する材料としても重要であろう。

もっとも、失業率は景気の動きに少し遅れて動くので、景気が回復をはじめたことに気づくのが遅れるといった問題はある。景気の大きな流れを見るということであれば、多少タイミングが遅れても大きな問題ではないだろうが。

■慣れた人には多くのグラフがわかりやすい
上記以外にも、多数のグラフが載っていて、それぞれに工夫されているので見やすくて便利である。

統計の数字が発表されても、それが過去10年間にどう推移してきたのか、といった事がわからないと、イメージを誤る可能性があるが、月例経済報告には比較的長期のグラフが多いので、そうしたリスクが小さいのも有難い。

たとえば、景気動向指数のグラフであれば、平成バブル崩壊時の落ち込み、リーマン・ショックの時の落ち込みと新型コロナ不況の時の落ち込みを比べて深刻さ度合いをイメージできる、といった事ができるわけである。

多数のグラフを毎月見るのは大変だが、年に1度くらいは多数のグラフをじっくり眺めて見るのも悪くないだろう。景気に興味があるならば、毎月眺めてももちろん構わないが(笑)。

本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係が無い。また、わかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。

(11月5日付レポートより転載)

アナリストコラム一覧 TOPへ戻る