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アナリストコラム

ロシアを取り巻く緊張が緩和されない限り、日経平均の28,000円超えは難しい -藤根靖昊-

2022年05月17日

決算発表が一巡した13日時点の22年度のコンセンサス予想EPSは、決算発表前の4月1日時点を1.6%下回りました。下回ったとはいえ比較的高水準が維持された状態です。23年度(来期)に関しては4月1日時点の水準を若干ですが上回っています。22年度業績は原材料高などインフレの影響から伸び悩むものの、23年度には成長軌道に回復するという予想になっています。しかし、中国経済の急減速や米国の景気減速の可能性、食糧価格の高騰など足もとのファンダメンタルズのさらなる悪化を十分に織り込んでいるとは言い難く、今後は下方に振れる可能性も十分考えられるでしょう。企業のガイダンスは従前の予想よりは悪くはなかったが、慎重であるのか強気過ぎるのかをまだ市場は判断しかねているという段階のように思われます。

16日に発表された中国の小売売上高(4月)は前年同月比▲11.1%とゼロコロナ政策の推進から急速に悪化しました。工業生産も同▲2.9%、1-4月の不動産開発投資も前年同期比▲2.7%でした。同日に上海市はロックダウンを6月から解除する方針を示しましたが、サプライチェーンの回復にはまだ時間がかかりそうです。

15日にフィンランドはNATO(北大西洋条約機構)への正式加盟申請を発表しました。また、同日にスウェーデンの政権与党もNATO加盟への支持を公表しました。軍事的には中立であった両国がNATOに加盟することによってロシアとの緊張関係が強まることも予想されます。天然ガスの欧州への供給が停止される可能性も考えられ、エネルギー価格の高騰が継続することから欧州の景気悪化やインフレがさらに強まることが懸念されます。
市場はウクライナが反攻を強める中で、ロシア軍の疲弊が進むことで戦闘継続がやがて困難になるとの見方を持っているようですが、ロシアの弱体化によって危機をより高める可能性も指摘できると思います。株式市場は、ロシアを取り巻く緊張が緩和されない限り、リスクプレミアムの高止まりから(経済減速による企業業績の悪化が生じなかったとしても)株価上昇に楽観的にはなりにくいと考えます。

決算が一巡したので見通しを整理したいと思います。現状のコンセンサス予想から算出される日経平均株価の妥当レンジ(TIW算出)は28,100円~30,300円ですが、これはあくまでも平時(リスクプレミアム6.5%~7.0%)を想定したものです。リスクプレミアムは7.0%超の水準が続いており(13日現在7.44%)、日経平均株価はロシアとの緊張が緩和されない限りは28,000円を上回ることは難しいと考えます。下限についてはリスクプレミアム7.5%の26,100円と置きます。ロシア・ウクライナ情勢によるので期間を明確には申し上げられませんが、半年程度を想定します。
米国株式市場はインフレ、金融引き締め、経済減速、企業収益悪化の可能性から停滞が続く可能性も考えられます。バーナンキ元FRB議長はニューヨーク・タイムズに「良好なシナリオに基づいても景気減速は起こるだろう」、「向う1年か2年は成長率が低く、失業率が少なくとも若干上昇し、インフレがなお高い局面になるだろう」と述べ、スタグフレーションの可能性に言及しました。今週の米国経済指標は、17日:小売売上高(4月)、鉱工業生産(4月)、企業在庫(3月)、18日:住宅着工許可件数(4月)、19日:フィラデルフィア連銀製造業景気指数(5月)が予定されています。まだまだ市場は揺れる展開が続きそうです。

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