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アナリストコラム

高まりつつあるスタグレーションの足音 -藤根靖昊-

2022年06月14日

8日から週末を挟んで13日までの4日間のNYダウの下落幅は2,663.4ドルにも達しました。米小売大手の過剰在庫、インテルの業績悪化懸念、クレディスイスの赤字転落、ECBの7月利上げ発表(9日)など世界景気の下押し懸念が強まり、市場センチメントが悪化している中で、10日発表の米消費者物価指数(CPI・5月)が追い打ちをかけた格好になりました。CPIは前年同月比+8.6%と市場予想(+8.3%)を上回りました。食品やガソリンなど生活必需品の大幅上昇に加えて、中古車や航空運賃、住居費の上昇も加速しています。
次回(14-15日)及び7月の連邦公開市場委員会(FOMC)において各0.5%の利上げは既に市場で織り込み済みではありましたが、次回の利上げ幅が0.75%に拡大するとの予想や(1.00%との予想も一部ある)、9月以降も0.5%の利上げが継続されるとの見方が急速に台頭しました。それらを受けて米10年国債利回りは13日に一時3.37%にまで急騰しています。

ロシア・ウクライナ情勢に関しては、8日にロシアのラブロフ外相が記者会見で停戦交渉に応じるようにウクライナ側に求めたものの、ゼレンスキー大統領は全く応じる姿勢は見られませんでした。この時点でロシアが停戦交渉を呼びかけたことに関しては、戦局が優位な局面で交渉に臨みたいとの意図も見られます。欧米からのウクライナへの武器供与が長距離攻撃を可能にするものに広がりつつあり、また戦闘長期化によってロシア軍の疲弊も深刻化しつつあるとの見方もあります。街の破壊や民間人の死傷者拡大など、一段と泥沼化する様相にあり、また世界戦争に発展する懸念も依然として残ります。

現在の高インフレは経済過熱といった需要面よりもウクライナ戦争を起点とした食糧やエネルギーなどの供給制約ならびに中国のゼロコロナ政策によるサプライチェーンの問題に起因しており、利上げによるインフレ抑制効果が限定される可能性も考えられます。中国は北京市や上海市での行動制限を一旦緩和しましたが、感染者数の拡大を受けて再び強化しています。利上げによる景気減速とインフレ率の高止まり継続からスタグフレーションに陥る懸念が一段と強まりつつあるように思われます。現在の市場の反応は、利上げと経済成長は維持できるとのこれまでの見方に変化が生じていることを示している可能性があるでしょう。

今週は米FOMC(14-15日)、日銀金融政策決定会合(16-17日)に加えて、14日:米生産者物価(5月)、15日:米小売売上高(5月)、米NY連銀製造業景気指数(6月)、中国の各種指標(5月、生産・小売・固定資産)などの発表が集中します。市場が不安定な状況にあることから発表内容によっては激しく振れる可能性も考えられます。
しかしながら、日本株(日経平均株価)に関しては、現状のアナリストコンセンサス予想とリスクプレミアム水準から26,000円を大きく割りこむことは想定しておりません。バリュエーション面ではむしろ、短期的には拾い場と考えますが、世界情勢とサプライチェーンの状況(回復の遅れ)によっては1Q決算以降に企業側のガイダンス(業績見通し)が悪化する懸念には留意する必要があると考えます。

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