メニュー
アナリストコラム

中国経済の失速はリスクと同時にチャンスかも –客員エコノミスト -塚崎公義 –

2022年07月29日

■中国経済が失速するリスクが懸念される
■中国経済が失速すれば対中輸出減少などの悪影響
■中国経済が失速すれば資源価格が安定
■世界的なインフレ懸念の後退は金融市場にもプラス
■長期的なメリットも大きいかも

(本文)
■中国経済が失速するリスクが懸念される
中国経済が失速するリスクが懸念されている。筆者が注目しているのは、不動産バブルの崩壊、新型コロナ対策のロックダウン、「共同富裕」によるビジネスの萎縮、の3点である。

中国の不動産バブルが崩壊するという話は10年以上前から言われていたが、ようやく本当に崩壊する可能性が高まってきたようだ。不動産開発企業が次々と資金繰り難に陥っているため、大型倒産も噂される状況である。

中国では共産党のグリップが強いだろうから、バブルが崩壊しても金融危機は回避されるのかも知れないが、少なくとも今後当分の間は不動産の新規開発が止まるだろう。不動産建設は中国の主要産業なので、これが止まると経済全体が失速しかねない。

新型コロナ対策のロックダウンも大きなリスクである。すでに春先にロックダウンが実施されて経済が大きく落ち込んだわけだが、新型コロナが変異を続けて一層感染力を増している事を考えると、今後も同様の事が頻発する可能性は決して小さくなかろう。

新型コロナの変異によって重症化率は大幅に低下しているので、そこまで厳格に抑え込まなくても良いような気もするが、新型コロナの初期に厳しい人流抑制によって抑え込みに成功した体験があるため、メンツにかけても抑え込みたいという事なのかも知れない。

もうひとつ、「共同富裕」の政策もリスクである。これは、貧富の格差を縮小して皆で豊かになろう、という事であるが、方法に問題がありそうだ。仮に「金持ちには重税を課して、それを貧しい人々に分配しよう」といった事であれば、「重税を課されても残った金額だけで豊かに暮らせるくらい頑張って稼ごう」という人も多いだろうから、実害は大きく無いかも知れない。

しかし実際には、ある時突然「お前のビジネスは共産党体制の安定に有害だから取り締まる」といった事が行われているようであり、そんな事ではビジネスが萎縮してしまうだろう。皆が萎縮してビジネスが発展しなくなれば、経済の活力が失われ、「皆が平等に貧しくなる」かも知れない。

■中国経済が失速すれば対中輸出減少などの悪影響
中国経済が失速した場合の、日本経済等への悪影響は容易に想像がつく。中国は日本の主要な輸出先であるから、その経済が失速すれば、日本の輸出産業が甚大な影響を受けるだろう。輸出企業の生産が減れば雇用や投資が減り、景気が悪化するだろう。

今回は、それに加えてロックダウンによる輸入の困難化が懸念される。製品輸入の困難化も困るだろうが、深刻なのは部品輸入の困難化である。部品が調達できない事で国内生産が出来なくなると、雇用に悪影響が出るのみならず、物不足によるインフレにもなりかねない。悪くすると不況とインフレが共存する「スタグフレーション」に陥るかも知れない。

中国に進出している日本企業も多いので、そうした企業の損失も巨額なものとなろう。もっとも、日本経済に与える影響という点では、中国子会社の不振による親会社の損失が日本国内の雇用や投資に影響するとも思われないので、当該企業の株価が下がる程度の事だろう。そこは輸出の減少と区別して考える必要がある。

■中国経済が失速すれば資源価格が安定
しかし、悪い話ばかりではなかろう。中国は資源の大量消費国なので、中国経済が失速すれば世界の資源の需給が大きく改善し、資源価格が高騰から下落に転じるかも知れない。それは日本経済にとっても先進国経済にとっても非常に大きなメリットだ。

日本は、資源の多くを輸入しているから、資源価格の高騰は「資源国に消費税を増税された」ようなものである。したがって、資源価格が下落すれば、企業収益にも個人消費にも大いにプラスとなるだろう。

欧米に目を転じると、インフレによって金融が引き締められて景気が悪化するリスクが拡大している。したがって、資源価格が下落してインフレ懸念が和らいで金融引き締めが終われば、景気が後退せずに拡大を続ける事が出来るかも知れない。

■世界的なインフレ懸念の後退は金融市場にもプラス
インフレ懸念の後退は、欧米諸国の金融引き締めを終わらせるだろう。そうなれば、金融引き締め懸念で下落していた株価は順調に戻るかも知れない。株価下落のもう一つの要因である景気後退懸念も、上記のように改善するだろう。

欧米諸国の金融引き締めが止まれば、為替レートも安定するだろう。円安が日本経済にとって好ましいか否かは議論のある所であるが、急激かつ大幅な為替レートの変動は円高であれ円安であれ経済を不安定にするので望ましいことではない。したがって、今後一層の円安が急激に進むことはリスクであり、その可能性が低下するのであれば、それは素直に喜んで良かろう。

■長期的なメリットも大きいかも
中国経済が失速すれば、先進国企業の中国への投資が減るだろう。ロックダウンのリスクが意識されている事も考えれば、大幅な投資減少が起きるかも知れない。

その分は、別の途上国に投資される事もあろうが、一部は日本に戻ってくるかも知れない。そうなれば、日本経済に大きな需要をもたらしてくれそうだ。

筆者は外交や軍事の事は詳しくないが、米中冷戦が激化する可能性を考えれば、先進国企業が中国への投資を先進国等に振り替える事は米中の経済バランスを変更し、軍事的にも望ましい変化をもたらすのかも知れない。旧ソ連が経済の行き詰まりから冷戦持続を諦めたように、中国も覇権争いを諦めるという可能性に期待しつつ、筆を置くこととしよう。


本稿は、以上である。なお、当然であるが投資は自己責任でお願いしたい。

(7月28日付レポートより転載)

アナリストコラム一覧 TOPへ戻る