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アナリストコラム

米利上げに対する緩和的見方は後退 -藤根靖昊-

2022年08月09日

ペロシ米下院議長の訪台による瞬間的な緊迫状態から市場は回復しつつあるようです。しかしながら、台湾周辺の緊張は以前よりも確実に増したことはリスク量の増加として認識しておく必要があると考えます。

3日発表の米ISM非製造業景況指数(7月)は低下を見込んでいた市場予想に反して56.7と前月比1.4ポイントのプラスとなりました。さらに5日発表の米雇用統計(7月)においては、非農業部門雇用者数が市場予想(25万人増程度)に対して、前月比52.8万人増と大幅に増加し、失業率も3.5%と6月(3.6%)と低下しました。注目されていた平均時給も前月比+0.5%(予想は+0.3%)と加速しました。
賃金上昇率の鈍化がみられない限りは、FRBは利上げペースを緩められないとの見方が支配的と考えられます。雇用統計発表後の6日にFRBのボウマン理事は「物価上昇率の持続的な低下が確認できるまでは同程度の利上げを検討すべきだ」と述べています。債券市場では米利上げ継続による景気後退懸念を視野に、米10年国債利回りは2.75%へと低下傾向を示しています。しかし、米国株式市場は不思議なほど堅調さを維持しています。

今週は、10日:米消費者物価指数(7月)、11日:米生産者物価指数(7月)、12日:ミシガン大学消費者態度指数(8月)などの米国経済指標の発表が注目されます。足もとの原油価格・ガソリン価格が下落していることから消費者物価の上昇率は鈍化すると見込まれています。株価が堅調なのは原油価格の下落が背景にあるのかもしれません。消費者物価指数が下落してもその中身を精査する必要があるかもしれません。また、来週15日には7月の中国の消費・工業生産・固定資産投資等が発表されます。ロックダウン等で一段と景気が悪化している可能性もありこちらも用心が必要と考えます。

足もとの株価は上値に対しては引き続き膠着感の強い展開が続く中で、リスク要因に対して脆弱な状態にあると考えます。
国内企業決算は円安要因もあり、上方修正企業が下方修正企業を上回っています。事前の予想よりは堅調であると言えそうです。しかし、来期以降のアナリストコンセンサスは伸び悩みからむしろ下方に動きつつあるようです。世界経済の減速を織り込み始めているのかもしれません。日本株は今期業績をベースにすれば株価は割安感のある水準であることから、原油安を受けて一時的に上昇する局面があるかもしれません。しかし、終わりの見えないウクライナ・ロシアの戦闘、中台の緊張の高まりなど地政学的リスクの増加や、欧米・中国の景気減速など、強気にはなりにくい状況が続きそうです。個別株を物色する展開が今後も続くと考えます。

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