メニュー
アナリストコラム

風雲急を告げる、日銀変動許容幅0.5%へ -藤根靖昊-

2022年12月20日

まさに“風雲急を告げる”という一日でした。
日銀は19-20日の金融政策決定会合において、従来0.25%程度としてきた長期金利の変動許容幅を0.5%に拡大することを決定しました。長期金利は足元では変動幅(0.25%)上限で推移していたため、日銀の買い入れ額が膨らんでいました。19日に日銀が公表した資金循環統計においては、9月末の日銀による国債保有残高は時価ベースで50.3%と5割を超える水準となっていました。
また、12月1日には、発行された新発10年物国債(2.8兆円)の半分以上(1.5兆円)を発行同日に日銀が買い入れるという事態が生じており、禁じ手と言われる「財政ファイナンス」に近いという批判も噴出しておりました。
また、内外金利差から円安が進んだことや資源高によって貿易赤字の膨張と物価上昇も政策転換を促したものと考えられます。

日銀の政策決定を受けてドル円は20日14時現在において133円台前半で推移しております。日経平均株価は約700円の下落となっております。そうした中で銀行・保険株が利ザヤ改善期待から上昇しております。しかし、これらはいずれも単純な条件反射のように思われます。確かに株価バリュエーションにおいて、理論上はリスクフリーレート(10年国債利回り)が0.25%追加されますが、日本株市場は国内投資家だけに閉じられたものではないので、既にグローバルな金利上昇の影響を織り込んでおります。また、日本企業の多くはネットキャッシュがプラスと財務的に健全であり、金利上昇による業績への直接的な影響は少ないものと考えられます。
ただし、長期的には国債の償還に伴う借換えにおいて利払い費が増加することによる日本政府の健全性がさらに低下することは日本売りの要因となるだけに懸念されます。
本日は小型成長株の下落が厳しくなっておりますが、絶好の拾い場と考えます。

さて、海外市場に視線を移します。
先週は、13日発表の11月の米消費者物価指数は前年同月比+7.1%と10月(+7.7%)より鈍化し、市場予想(+7.3%)も下回りました。13-14日のFOMCでは事前の予想通り利上げ幅は前回の0.75%から0.5%に縮小されました。また、政策金利見通しも23年末5.1%とほぼ市場の予想通りでした。
しかしながら、FOMC参加者による23年10-12月の実質経済成長率(見通し)が9月時点の1.2%から0.5%へと大きく引き下げられたことや、23年末の失業率が4.4%(9月時点)から4.6%へと引き上げられたこと、加えてパウエル議長が23年中の利下げをきっぱりと否定したことなどから、市場の楽観が霧散しました。15日に11月の米小売売上高が前月比▲0.6%となり景気悪化懸念が強まり、NY株式市場は大幅な下落に見舞われました。15日にはECB理事会も行われ、予想通り0.5%へと利上げ幅が縮小されたものの、ラガルド総裁の「ECBが方針を転換したと考える人は間違いだ」という強烈なメッセージも株式市場の重石となっていたと考えられます。
15日には中国の11月の経済指標の発表も重なりました。社会消費品小売総額は前年同月比▲5.9%(10月:▲0.5%)、工業生産+2.2%(同+5.0%)、1-11月固定資産投資+5.3%(1-10月+5.8%)といずれも大きく沈みました。
中国では7日にゼロコロナの緩和政策を発表後から新型コロナウイルス感染が拡大しており、それに対して中国当局は14日には無症状感染者の人数公表を中止しました。さらに15日にSNS(交流サイト)の管理規定を強化し、「点賛(いいね!)」も規制対象に加え、情報統制を強めています。中国での死者数は100万人にも達するという予想もあり、再びサプライチェーンの混乱が危惧されます。

市場では、足元の経済指標とFRBの経済見通しには乖離があり、FRBが市場の楽観を抑制するために意識的にタカ派を演出しているとの見方もあるようです。ただ一方では、ISM製造業景況感指数などから米国上場企業に対するアナリスト予想はまだ業績悪化を織り込んでいないとの指摘もあります。

必要以上に悲観になるべきではないが、いずれにしても、発表される統計に揺さぶられる展開が続くことが予想されます。米国政策金利見通しのブレが小さくなった現状では景気後退を予感させる悪い経済指標に引っ張られそうです。
今週の経済指標は、21日:コンファレンスボード消費者信頼感指数(12月)、23日:11月の米個人消費支出(PCE)物価指数、が注目されます。

アナリストコラム一覧 TOPへ戻る