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アナリストコラム

日銀の債務超過は懸念不要 -塚崎公義-

2023年02月03日

■国債の価格下落で日銀が債務超過に?
■満期まで持てば問題無いと言えるか?
■本当に債務超過になったら政府が埋める
■円の価値が暴落するとすれば政府の債務

(本文)
■国債の価格下落で日銀が債務超過に?
長期金利が上昇している。今のところ上昇幅は僅かであるから、国債価格の下落幅も僅かであるが、インフレ率が高まっているので、日銀が金融政策を変更して長期金利の一層の上昇を容認すると考えている人も多いようだ。

日銀は巨額の長期国債を保有している一方で、自己資本(純資産)は僅かしか無いため、国債価格の僅かな下落でも日銀が債務超過に陥る、と心配している人は多いようだ。

実際には、日銀は保有する国債を決算期に時価評価せず、簿価で評価しているので、日銀が今期末に債務超過に陥るという事は考えにくい。しかし、「市場価格で評価すれば債務超過だ」と皆が知っている状況になるとすれば、日銀に対する信頼が揺らぐと心配するのも理解できる。

■満期まで持てば問題無いと言えるか?
日銀は、購入した国債を満期まで保有するつもりなのだろうし、満期になれば額面で償還されるのだから、現在の市場価格の値下がりは気にする必要が無い、という考え方もあろう。それで良いのか否かを判断する一つの材料として、今後も短期金利はゼロで推移するのか、という見通しが重要であろう。

日銀のバランスシートは、短期の負債(銀行の保有する準備預金)で長期国債を保有しているので、負債の金利がゼロで推移するならば、資産である長期国債を満期まで持っていれば何も問題ない事になるからだ。

しかし、短期金利がプラスになると厄介だ。インフレの時代が来て日銀が金融政策を変更して、銀行間の貸借の金利が1%になったとしよう。銀行は日銀に預けている準備預金を引き出そうとするだろう。

巨額の準備預金が一気に引き出される時、日銀が紙幣を印刷して応じれば世の中に大量の紙幣が出回ってインフレが激化するだろう。それを避けるために日銀が保有している巨額の国債を売りに出せば、今度は長期国債が暴落して長期金利が高騰して経済が大混乱するだろう。

したがって、日銀は銀行による準備預金の引き出しを防ぐため、準備預金に1%の金利を支払う事になるはずだ。そうすれば銀行は引き続き準備預金に預けたままにするだろうと期待して。

巨額の準備預金に1%の金利を支払い、持っている巨額の長期国債からの金利収入がゼロだと、日銀の毎年の決算は大赤字になるから、債務超過に陥る可能性が高まろう。

日銀が持っている国債がすべて償還されるまで短期金利がゼロであるという保証は無い。今後も日銀の長期国債購入が続くとすれば、半永久的に短期金利がゼロである事を祈る必要が出てくるが、それは難しいだろう。つまり、厄介な事が将来的には起こる事を覚悟しておいた方が良さそうなのである。

したがって、いますぐに債務超過になる心配はしなくても良さそうだが、将来いつかは日銀が債務超過に陥る、という可能性は決して小さくなさそうだ。

■本当に債務超過になったら政府が埋める
しかし、日銀が債務超過になったら直ちに円の価値が暴落する、というものでは無いはずだ。

まず、普通の企業は債務超過になれば借金が返済できずに倒産する可能性が高いが、日銀は債務超過になっても借金が返済できない事は無いだろう。日銀の借金は準備預金であるから、それを引き出しに来た銀行に対して紙幣を印刷して渡せば良いからだ。

それではハイパーインフレが来る、と心配する人が多ければ、金融を引き締めてインフレを抑制すれば良いし、厳しい引き締めは大不況を招くという人が多ければ預金準備率を引き上げれば良い。

しかも、実際にはそんな事をする必要は無いはずだ。日銀が債務超過に陥っても、だれも気にしなければ何も起きないからだ。「日銀が債務超過に陥ったから、日銀が倒産する前に準備預金を引き出そう」と考える銀行が無ければ、何も起きないだろう。

そもそも、日銀から準備預金を引き出した際に渡されるのは日本銀行券であるから、引き出す行為自体に意味があるとも思われないが(笑)。

まあ、一部の投資家が動揺して株を売ったり資産をドル建ての資産に移し替えたりする事で、ある程度の混乱は起きるかも知れない。

そうであれば、混乱を防ぐために、日銀の債務超過分は日銀に増資させて政府が引き受ければ良いだけの話だ。

日銀が10兆円の債務超過に陥ったとして、政府が10兆円の国債を発行して日銀の増資を引き受けたとしよう。日銀は債務超過が消えて何も問題が無いはずだ。政府は、1000兆円の借金が1010兆円に増えただけで、「誤差の範囲」である。

しかも、その10兆円は将来日銀から戻って来るはずだ。優先株を買い戻させても良いし、配当させても良いし、日銀納付金で吸い上げても良いだろう。重要な事は、日銀の赤字は永遠には続かず、遠からず黒字を計上するようになる、ということだ。

初年度は巨額の準備預金に1%の利払いをするので辛いが、翌年度はゼロ金利の保有国債の一部が償還され、その分だけ準備預金が減るはずだ。そうして10年経てば、保有国債がなくなり、逆ザヤは消えるだろう。今後も日銀は国債を買い続けるかも知れないが、それには金利が付いているだろうから、準備預金との逆ザヤは心配しなくて良いからだ。

それからは、日銀は金利で稼ぐ存在となるだろう。現金と引き換えに国債を取得するとすれば、現金には金利を支払う必要が無い一方で国債からは金利収入が得られるからだ。

■円の価値が暴落するとすれば政府の債務
円の価値が暴落する可能性は皆無とは言えない。しかし、それは日銀が債務超過に陥る事によるのではなく、政府の借金が巨額である事を市場が懸念した場合であろう。

日本政府が破産すると人々が思えば、日本国債は暴落し、円は暴落するだろう。しかし、人々がそう思わなければ何も起きないだろう。神のみぞ知る、である。仮に国債と円が暴落しても日本政府が破産する事は無い、と筆者はと思っているが、そのあたりの話は、別の機会に。

本稿は以上である。なお、本稿はわかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。

(2月2日付レポートより転載)

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