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アナリストコラム

米景気減速が強まることで円安は株高材料から再びネガティブ要因へ -藤根靖昊-

2023年05月30日

27日にバイデン大統領と共和党のマッカーシー下院議長は、懸案であった米債務の上限を引き上げることで合意しました。合意内容は、1)2025年1月1日まで上限の効力を停止する、2)24年会計年度において社会保障を除く「裁量的支出」の国防費を除いた金額を23年度とほぼ同じ水準とし、25年度も1%増にとどめる、3)低所得者向け食糧支援は対象年齢を49歳から54歳以上に引き上げる、4)低所得者向けの公的医療保険「メディケイド」の支給要件は変更しない、などです。

両者ともに妥協の跡が見て取れる内容であり、マッカーシー氏は31日の議会での採決を表明しておりますが、一筋縄では決着しない可能性も残ります。また、上限引き上げが成立した場合でも財務省短期証券が大量発行される見通しから国債利回りの上昇が見込まれます。米2年国債利回りは直近4.6%前後にまで上昇しており(4月下旬は4.0%前後)、国債利回り上昇によって銀行預金から国債への資金移動を促す可能性も考えられます。地銀の信用不安がまた再燃する可能性が懸念されます。

さらには、6月のFOMC(6/13-14)において追加利上げの可能性が再び焦点になりそうです。6月は様子見のために一時的に利上げを休止するとの見方が主流とみられますが、ブラード総裁(セントルイス連銀)やウォーラー理事など追加利上げを声高に主張するタカ派が存在します。26日に発表された個人消費支出(PCE)物価指数ではエネルギーと食品を除く指数は+4.7%と3月(+4.6%)および予想(+4.6%)を上回りました。インフレ鎮静化にはまだ道のりが遠そうです。仮に6月のFOMCで一時的に利上げ休止となっても追加利上げの可能性はその後も存続すると考えられます。

米金利上昇による金利差から対ドルでの円安が進行しています。インフレ鎮静化が米国よりも遅れている欧州も利上げが継続する見通しであり、ドル・ユーロという主要通貨に対して円安基調が続くとみられます。円安進行によって国内輸出企業の株価は押し上げられた面もありますが、輸出数量は特に中国向けの停滞から依然としてマイナス基調が続いています。30日発表の貿易統計5月上旬分速報において輸出は金額ベースで僅か+0.2%に留まっています。為替を考慮すれば数量ベースでは確実にマイナス圏とみられます。

海外景気指標の悪化はインフレ鎮静化と欧米の利上げ鈍化(または停止の可能性)として株式市場ではポジティブに捉えられた時期もありましたが、今後は輸出への悪影響として直接的にネガティブ材料として受け止められるものと考えます。

今週は重要経済指標の発表が続きます。30日:米コンファレンスボード消費者信頼感指数(5月)、31日:中国製造業景況感指数(国家統計局・5月)、米雇用動態調査(JOLTS・4月)、6月1日:米ISM製造業景況感指数(5月)、2日:米雇用統計(5月)。米国の各種統計に対する市場予想はいずれも悪化を見込んでおります。

このところの日本株の上昇から楽観論が広がっておりますが、消去法的な選択から日本株が選好されているのであるならば、賞味期間は長くはないと考えます。現在のコンセンサス予想(企業業績見通し)を基準にするならば日経平均株価は32,000円が上限と考えています。
円安と株価上昇の連動は輸出数量回復が前提となるべきです。欧米の景気悪化や中国の回復テンポの鈍化ならびにデフレ懸念が日本企業・日本経済にも夏以降にも波及してくるものと考えます。
主力銘柄の株価が一服する展開では、景気動向の影響が小さな高成長株への回帰が生じると考えております。

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