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アナリストコラム

上昇するPERの時代的背景 ―これからの投資家に必須なものとは― -原田哲也-

2023年06月28日

1990年代以降(国によってはそれ以前から)、世界の主要国・地域のM2(年末12月の平残)の伸びは名目GDPの伸びを恒常的に上回ってきている。

M2/名目GDPの推移をみると
米国は1997年がボトムで47.3%→2022年84.2%。
日本は1994年ボトムで104.1%→2022年217.9%。
ユーロ圏はデータが取れる1995年が60.8%→2022年115.0%

90年代のボトムから名目GDPに対するM2の比率は凡そ2倍に増えていることが分かる。

こうしたマネーの増加はリーマンショックを始めとした度重なる経済・金融危機などで大型の金融緩和や財政支出などがもたらしたと考えられる。加えてトマ・ピケティが「21世紀の資本主義」で現わしていた「r>g」、つまり資本収益率が経済成長率を上回ることも寄与しているのかもしれない。

M2と名目GDPの推移が示しているのは、お金を市場にどんどん供給しても実物経済にはあまり回らず、有価証券や不動産に投資され、資産価格を上昇させているということである。これは、経済のソフト化、デジタル化とも関係があるだろう。

米国を例にとって、もう少し長期に見てみると、1960年代、1970年代、1980年代の30年間はM2と名目GDPの伸びはほぼ同じで両方ともおおよそ10年で2倍となっている。
しかし、1990年代から変調を来たし、特に2000年代、2010年代はM2が80%以上伸びたのに対し、名目GDPは50%程度の伸びに鈍化している。

それが冒頭で示した1990年代以降のM2/名目GDPの比率の大幅な上昇につながっているのである。

米国では1960年以降2021年までM2は一貫して伸び続けた。2022年だけが減少しているが、これはCOVID-19でM2を2年間で40%拡大した反動である。

そして、日本は1970年から現在まで1992年を除いて、ユーロ圏は統計開始以来一度もM2が減少した年はない。
誤解を恐れずにいうと、世界の先進主要国は経済状況に関わらずというか、悪い時は勿論、良い時でもお金をバラまいてきたのである。特に2000年以降政治のポピュリズム化が進み、その度合いが高まった結果M2と名目GDPの乖離が拡大してきていると私は理解している。

こうした経済・金融環境の変化の恩恵を享受してきたのが株式市場である。
米国の名目GDPに対する米国NYSEの時価総額をみると1980年では41.7%、1990年も45.1%。しかし、2000年はITバブル相場もあり一気に111.6%と名目GDP越えとなった。2010年はリーマンショックの傷がいえず一転89.0%に落ち込んだが、2020年は106.9%と再度名目GDPを上回って来た。

企業業績を名目GDPの関数と捉えると名目GDPを上回る株式市場の拡大スピードは今まで述べてきた金余りによるPERの上昇が背景と考えられるのではないか。

米国S&P500の1880年代からの実績PERの推移をみると1990年ごろまではだいたい10倍から20倍の間に収まっていた。平均はおよそ15倍程度である。ところが1990年代以降は最低でも15倍となり、20倍越えが常態化してきた。40倍以上も2度発生しており、現在も20倍超である。

こうした実物経済と金融経済(金融資産)の関係性の変化から、過去のPERを金科玉条のごとく当てはめて今後の株価予想をすると間違いを犯す可能性があるのではないかと考えている。

これは、米国だけではなく、日本も同じだと思われるが、残念ながら1989年以前の日本のPERが異常なので、過去と比較しての検討があまり意味をなさないと思う。今のところ、米国のPERの上昇を後追いする形で上昇していくと考えている。

もう一つ、これからの株式市場を考えるうえで重要な点は、メガテクノロジーの時代を迎えているということである。
代表的には
① 生成AI
② 量子コンピュータ
③ 核融合発電
④ 最先端生命科学
等である。

詳細は今後に譲るが、例えば核融合発電の実用化の時期がかなり早まり、2030年代にも訪れとるという見方がこのところ出てきている。実現すれば、世界の経済、社会、人々の生活などあらゆるものが根底から覆る。それがあと10年余りで到来するかもしれないとしたら(たった10年!)、株式市場はどうなるのか想像してみてほしい。PERはどうなっているのだろうか、考えてみてほしい。

纏めてみると、世界の主要国でポピュリズム政治が続くと想定されこの先も金融・財政の緩和・拡張政策がとられるだろう。その結果、株式市場へお金が継続的に流入し続け、下落を経ながらも基調的にはPERを押し上げる。そしてメガテクノロジー時代への期待もPER上昇への強力な圧力となるだろう。

これからの株式投資家は景気、企業業績、地政学への知識と分析力と洞察に加えてテクノロジーへの知見が極めて重要になるのだ。

(6月28日発行分より転載)

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