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アナリストコラム

離陸する核融合発電 -有望なスタートアップが続々登場- -原田哲也-

2023年08月01日

前回に触りだけ書いたが、いま世界はメガテクノロジーの時代を迎えつつあり、それが株式市場の牽引役にもなるだろうという認識を持っている。

メガテクノロジーが立て続けに実用化されようとしているが、中でも最も期待される技術の一つが核融合発電だと考えている。

核融合発電は大きく括れば原子力発電だが、中身は全くと言っていいほど違う。
先ず、原子力発電について説明するとしよう。現在の原子力発電は核分裂を利用したものだ。特に核分裂し易いウラン(235)に中性子をぶつけるとウラン原子は2つの原子核に分裂するが、その時に大量の熱エネルギーを出す。この熱を用いて水を蒸気に変え蒸気タービンを回転させ発電を行う。また。ウランが核分裂するときにウラン原子から中性子が何個か飛び出してきてもとのウラン原子に当たり次々と核分裂反応が連鎖的に起こる。この連鎖核分裂反応を制御しなければ暴走してしまうのが原子力発電の恐ろしいところである。

核分裂反応を何らかの要因で制御できなくなって放射性物質の外部への放出に繋がり世界的に原子力発電への批判がまき起った事故が大きなもので3度あったと記憶している。米国のスリーマイル島原発、旧ソ連のチェルノブイリ原発そして東京電力福島第一原発である。

そのたびに世界の原子力発電計画は中止あるいは延期されるが、ほとぼりが冷めると再び動き始めるということを繰り返してきた。しかし、福島第一原発事故を奇禍として、ドイツは原子力発電の全廃に踏み切った。人類は原子力の核分裂反応を完全に制御できるのか?未だに100%出来るとは言えないだろう。常に想定外のことが起こりえるからである。

もう一つ原子力発電において大きな問題は使用済み核燃料を含む高レベル放射性廃棄物の存在である。これは被爆すると人体にとって強い影響(下手すると死に至る)があり、影響がなくなるまで約10万年を要するといわれている。これをガラスとともに固化して処分する方法が一般的とされるが、地下深く埋設したとしても地下水などに流れ出てしまい環境汚染の可能性が捨てきれない。そのため誰もが嫌がり、日本において現在までのところ最終処分場は存在しないのである。仕方がないので原子力発電所の敷地内に貯めているが、当然限界が来る。

このため、原子力発電はCO2を出さないので地球温暖対策には有効だが、ある意味、温暖化に劣らない解決が難しい問題があり、将来の電力供給源として頼ることは出来ないのである。

従って現在、地球温暖化対策の主役として再生可能エネルギーというか自然エネルギーを利用した太陽光発電、風力発電が推進されているが、自然まかせであり、発電量のブレが大きく、平準化は出来ない。また、地域差が大きく、どこでも安定した電力を供給することも難しいのが現実である。

そこで現在でもCO2を排出するが安定的な電力供給のエネルギーとして最も利用されている化石燃料に代わる切札的な存在として核融合発電が極光を浴びているのである。

核融合は核分裂と違い、原子核同士が合体する反応である。この際に非常に大きなエネルギーが発生する。このエネルギーを利用して発電するのである。

一般的に燃料として用いられるのは一番軽い元素の水素の仲間である重水素と三重水素であり、これを合体させたら水素の次に重い元素のヘリウムが生まれる(ついでに中性子も出てくる)。重水素と三重水素合わせて1gから石油8トンの熱エネルギーが出てくるといわれているので凄まじいことこの上ない。この核融合反応は太陽の中で起きている反応と同じなので「地上の太陽」とも呼ばれている。

核融合発電のメリットは原子発電と比べると分かりやすい。
① 原理的に暴走が起こらない(誤解を恐れずにいうと何か問題が起こると自ら反応を停止してしまう)
② 燃料の重水素と三重水素は海水からとれるので無尽蔵
③ 放射性廃棄物がほとんど出ない
④ 勿論、原子力発電と同じく発電時にCO2を排出しない
と良いことずくめなのだが、問題は太陽と同じ反応を作り出すのであるから、並大抵の技術ではない。何と言っても難しいのが燃料となる重水素と三重水素を加熱して1億度以上の高温(プラズマ状態)にする必要があることだ。当然コストも高くなる。


こうした技術的な難易度などから従来は、核融合発電への評価はたとえ出来たとしても実用化は2050年代以降だろうし、それも不確かだというものであった。

従来から核融合発電の技術開発を行ってきたのは国家(際)研究機関である。代表的なものはフランスにあるITER(国際熱核癒合実験炉)である。EU、英国、インド、日本、韓国、ロシアそして米国が資金を拠出して実験炉を建設中である。建設は2007年から始まり、当初は2020年ごろにプラズマを生成する予定であったが、遅れに遅れ現時点では運転開始は2040年代にずれ込みそうだといわれている(現在も建設が中断しているようだ)。また、費用も当初の予算54億5000万ドルから4倍程度に膨らんできている。

こうした核融合発電の停滞状態を覚醒させたのが、昨年12月に米国国立点火施設(NIF)の発表であった。投入したエネルギー量を上回るエネルギーの発生に成功した。投入の訳1.5倍のエネルギーを発生したという内容であった。これは歴史上初めてであり、核融合の新たな展開に向けた第一歩と言ってよいだろう。

NIFの方式は燃料の水素にレーザーを当てるもので、実は少数派である。ITERも含め多数派は磁気封じ込めのトカマク方式である。今後、技術革新によって新しい方式が登場し、それが核融合の本命になるかもしれないが、未知なる世界だ。

さて、こうした国家機関や国際研究機関などがリードしてきた核融合発電だが、近年、急速に頭角を現してきたのが、スタートアップである。

今年5月にマイクロソフトが米国の核融合発電のスタートアップ、ヘリオン・エネジーと2028年から核融合で発電した電力の購入契約を発表した。核融合発電の電力の売電契約は初めてということだ。

2028年?本当かと誰しもが思うだろう。詳細は不明だが、ヘリオンは成功しなければマイクロソフトにペナルティーをはらうということが報じられていることからして、全くの絵空事では無いようである。推移を注視したい。

また、米国コモンウエルス・フュージョン・システムズ(CFS)は2025年に小型炉SPARCを稼働させるメドがついたとし、2030年代初頭には商業炉を実現できると自信を見せている。
CFSは2018年に設立されたMIT(米マサチューセッツ工科大学)発のスタートアップで、既に20億ドル以上の資金調達を行っている。人材もNASA,スペースX、グーグルなどから錚々たるメンバーが集まって生きている。

同社の方式はトカマクだ。凡そ5年で実用化レベルの高性能超電導磁石の開発に成功したスピードと高い技術力には驚嘆する。

この他、英国のトカマク・エナジー(2022年3月に1億度のプラズマの生成に成功)、ジェフ・べゾフが出資しているカナダのジェネラル・フュージョン。さらにGoogleと提携し、燃料に水素とホウ素を使い中性子が出ないことから放射化しないという独自の方式を開発しているTAEテクノロージーズなどが核融合の新しい牽引役である。

Fusion Industry Associationという調査機関によれば核融合のスタートアップの74%が2030年代の商用化を目指しているという。

日本においても有力なスタートアップが登場している。京都大学発の京都フュージョニアリングだ。高温プラズマを生成するためのマイクロ波を照射する装置であるジャイロトロンでは世界的にも有力だ。

日本には上場企業のなかにも核融合炉を覆うブランケットなどの素材関連、超電導磁石関連などで優れた企業が存在する。核融合発電の進捗とともに株式市場での評価も高まっていく可能性がある。


核融合発電は最近10年で急速に技術進歩が加速し、実現可能性が高まり、時期も早まっているという見方が増えているようだ。これはAI(人工知能)の著しい進化と歩を一にしていると私は考えている。それはマテリアルインフォマティクスと言って素材開発をAIでシミュレートすることにより実際に素材そのものをアナログで実験室で一つずつ開発するのに比較して圧倒的に速く、狙った物質が出来るようになったからである。AIの進化は生成AIに見られるように一段と加速している。また、量子コンピュータの実用化も計算を更にスピードアップさせる期待がある。

そして、スタートアップの台頭である。旧来、巨大で難しい技術開発といえば国が主導して行ってきた。資金は集まりやすいが、如何せん遅い。
ITERとスタートアップの時間軸は雲泥の差があるし、最近のスタートアップの資金調達は1000億円以上といえどもそれほど難しくなくなっている。

スピードと資金両面で、今後の核融合発電はスタートアップがリードしていく可能性が高い。勿論、実用化に成功すれば莫大なマネーが懐に入る。人間のモチベーションこそ成功への最大の原動力なのである。

(8月1日発行分より転載)

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