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アナリストコラム

ハワード・マークスの「投資で一番大切な20の教え」より―賢い投資家になるために―(前編)-原田哲也-

2023年09月28日

今回(と次回)は少し趣向を変えてハワード・マークスの著書「投資で一番大切な20の教え」を参考に彼の投資の考え方を紹介したい。

このコラムを読まれている皆さんは株式投資について経験豊富な方も多いとおもいますので、この本を読まれた方もいると思いますが、読まれていない方は一度手にとってみてはいかがでしょうか。参考になる点が多々あると思います。

さて、ハワード・マークスは1946年の生まれですから御年77歳。ニューヨークはクイーンズのユダヤ系の家庭で生まれ育った。

この業界は本当にユダヤ系の人々が活躍している。代表的なのはジョージ・ソロスだが、ジェフリー・ガンドラックやマイケル・スタインハルトなどほかにも数えきれない。

ペンシルベニア大学ウォートン校を卒業後、シカゴ大学のビジネススクールに進学。卒業後シティーコープ・インベストメント・マネジメントの調査部門で働き始め、その後調査部門の責任者を務めた。

さらにTWC(債券運用に強みを持つ資産運用会社)などを経て1995年にTWCの仲間とともにオークツリー・キャピタル・マネジメント(以下オークツリー)を共同設立した。

オークツリーはハイイールド債やディストレス債への投資を得意とし現在運用資産1700億ドル以上ということである。

表題の著書はハワード・マークスがTWC時代から始めた顧客向けのレターを中心に書かれている。

レイ・ダリオのマクロ分析レポート「デイリー・オブザベーションズ」とともにとても評価が高く、ウォーレン・バフェットをして「手元に届いたら何をおいても必ず真っ先に読むことにしている」といわしめるそうである。

前置きはこのくらいにして、本の内容に入ろう。

はじめに
で気に入っているのは以下の文章である。
「とてもおもしろかった。これまでほかの本で読んだことすべてを裏づける内容だった」と感想をもらす者がいたら、私は本書が失敗作だったと感じるだろう。私の狙いは、読者がこれまでに触れたためしのない投資に関するアイデアや思考方法を伝えることにあるからだ。「そんな風に考えたことはなかった」と言ってもらえたら本望である。

どうですか、読んでみたいと思いません。

二次的思考をめぐらす
投資の目的は平均的なリターンを得ることではない、平均を上回るリターンを上げることだ。そのためには、ほかの人よりも優れた、より高次元の思考を身につける必要がある。
投資で成功するには周りとは違う思考方法を持たなければならない。
―ここでハワードは具体的な例を挙げて二次的思考とは何かを説明している―

市場の効率性(とその限界)を理解する
・効率的市場の価格が既にコンセンサスを織り込んでいるのだとすれば、コンセンサスと同じ見方をする者は平均的なリターンしか得られない公算が大きい。
・非効率的な市場は必ずしも参加者に大きなリターンをもたらすわけでは無い。むしろ非効率的な市場はスキルの違いに応じて勝ち組と負け組を生みだしうる材料を提供する。

バリュー投資を行う
・最も古くからある投資の原則は、最もシンプルである。「安く買って、高く売れ」。まばゆいほどに明瞭だ。だが、この原則が実際に意味することは何だろう。値段が高いとか、安いとかとはどういう意味だろう。
・真剣に利益を追求するなら、形のあるものを拠り所にしなければならない。私の考えではファンダメンタルズ分析に基づいて導き出された本質的価値が最もふさわしい。

価格と価値の関係性に目を向ける
・投資は「良いものを買う」ことではなく、「ものをうまく買う」ことで成功する。
・価格と無関係に良い投資アイデア、悪い投資アイデアといえるものはない。

リスクを理解する
・資本市場理論を構築した学者によれば、リスクとはすなわちボラティリティである。ボラティリティは投資の不確実性を示すからだ。このリスクの定義について、私は異議を唱える。
投資家はボラティリティよりも資金を失ったり、リターンが許容できないほど低くなったりすることを懸念して、投資を差し控えるのだと思う。私から見ると、「価格が乱高下するのが恐ろしいから、もっと値上がり余地のある方が良い」というよりも、「損したくないから、もっと値上がり余地のある方が良い」という方がはるかに説得力がある。いや、ここで断言しよう。「リスク」とは何によりまず、資金を失う可能性のことである。

・未来に起こりうるリスクのほとんどは主観的で、見えにくく、定量化できないのである。

―ハワードはリスクについてかなりの紙幅をとって様々な視点から説明しているので一読されたい―

リスクを認識する
人々はリスクに関して、リターンの場合と同じくらい過ちを犯す。手を出すには危険すぎるというコンセンサスが幅広く形成されているとき、そのほとんどは間違いである。たいていの場合、真実は全く逆なのだ。
投資リスクは、最もリスクが無いと思われているところで最も高くなっている、と私は確信している。逆もまたしかりだ。

リスクをコントロールする
リスク・コントロールとリスク回避の間に重要な違いがある。リスク・コントロールは損失を回避するのに最適な手段である。一方、リスク回避は結果として利益回避にもなる可能性がある。

サイクルに注意を向ける
・殆ど全てのモノにはサイクルがある。と肝に銘じることが必要不可欠だと思う。確信をもっていえることはあまりないが、これだけは確かだ。ひたすら一方向に動き続けるものなどない。空に届くまで伸びる木はない。またゼロになって終わるものもほとんどない。
・時として、サイクルの上昇局面が長期化したり、極端に大きく進んだりすると人々は「今回は違う」と言い始める。地政学上、制度上、技術面、行動面の変化によって「古いルール」は通用しなくなったと主張する。人々は最近の傾向を反映した投資判断を下す。やがて、古いルールがなおも生きていることが明確になり、再びサイクルが動き出す。


振り子を意識する
実際の振り子のように、投資家心理が極端な方向に振れると、反対側への揺り戻しを後押しするエネルギーが生じる。時として、たまりにたまったエネルギーそのものが、揺り戻しの原因となる。つまり、軌道の一端に向かう振り子は、自らの重さで反対側へと軌道を修正する。

心理的要因の悪影響をかわす
飽くことのない欲求、機会逸失の恐れ、他人と比べる傾向、集団の影響力、確実に儲かるものに対する幻想、これらはほぼ普遍的な要素であり、互いに絡まりあって、殆どの投資家や市場に強い影響を及ぼす。その結果、人は過ちを犯すのだ。そして、その過ちは広範囲にわたり、幾度となく頻繁に繰り返される。


後編に続く

(9月27日付レポートより転載)

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