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アナリストコラム

ハワード・マークスの「投資で一番大切な20の教え」より ―賢い投資家になるために―(後編)-原田哲也-

2023年11月01日

逆張りをする
・周りと同じ事をすれば、そうした人々や自分自身の行動が一因となって増幅する変動の波にさらされことになる。その大波が断崖に押し寄せているときに、群衆と行動をともにするのは間違いなく危険だ。しかし、それを避けるには並外れたスキル、洞察力、規律が必要なのである。

・幅広い投資家層に明白だと思われていることは、ほぼすべて間違っている。ある投資について形成されたコンセンサスは、その投資の利益の可能性を打ち消す傾向がある。例えば、誰もが素晴らしい成果をもたらすと信じる投資のアイデアだ。そのようなものは絶対にありえないと私は考える。

・懐疑主義と悲観主義は同義語ではない。楽観主義が行き過ぎたとき、懐疑主義は悲観主義をもたらす。一方で、悲観主義が行き過ぎたときに、懐疑主義は楽観主義を呼び込むのだ。

一つの確信を持って言えるのは、ナイフが床に落ち、混乱が収まり、不透明感が消えるころには、超お買い得品は全く残っていないということだ。

掘り出し物を見つける
・我々の目標は優良な資産を見つけることではなく、掘り出しものを探り当てることである。つまり、何を買うかではなく、いくらで買うかが問題だ。たいていの投資家は、客観的に見た資産の質の高さを投資機会と勘違いしたり、優良資産とお買い得品の区別がつかなくなったりする傾向があり、そのせいでうまくいかなくなるのだ。

・目指すのは割安な資産を見つけ出すことだ。では、どこで探せばよいのか。手始めに以下のようなものに目をつけると良いだろう。

●あまり知られておらず、十分に理解されていない
●一見してファンダメンタルズ面で疑問点がある
●議論の的になっていたり、反規範的と見られていたり、恐れられている
●「まっとうな」ポートフォリオに組み入れるには不適切とみなされている
●正しく評価されていなかったり、人気がなかったり、ないがしろにされていたりする
●リターンが低迷し続けている
●このところ、買い増しよりも削減の対象になっている

―この6項目はマークスのこの本の中でも1つの白眉といってよいだろう、かなり強烈である―

我慢強くチャンスを待つ
・良いチャンスは常にあるわけでは無く、余り動かずに状況を見極めることが、時として最善策になる。掘り出し物が出てくるのを我慢強く待つことが、最良の戦略となる場合も少なくないのである。
秘訣を教えよう。積極果敢に動くよりも、資産の方がこちらへ向かってくるのを待ったほうが、良いパフォーマンスをあげられる。

・予想リターンが極めて低く、リスク・プレミアムが小さい状況では、簡単な答えはないというのが実情である。だが1つだけ、私が間違っていると最も強く感じる行動がある。それは、「リターンを追求する」という典型的な過ちだ。

・間違いなく最高の投資機会は、資産の保有者が投げ売りするときに訪れる。


無知を知る
・私は、①マクロ経済が将来どうなるのか知ることは難しい、②未来に関する優れた知見を持ち、それを継続的に投資する際の強みに出来るものはほとんどない、ということを強く確信している。

・予測には殆ど価値がない。

今どこにいるかを感じとる
・投資の世界において、サイクルほど信頼に足るものはない。ファンダメンタルズ、心理、価格、リターンには浮き沈みがあり、そのサイクルが過ちを犯す機会、あるいは他人が犯した過ちに乗じて利益を上げる機会を生み出す。それは当然の成り行きなのだ。

・あるトレンドがどれだけ長続きするのか、いつ反転するのか、何が反転のきっかけになるのか、反転してどこまで行くのか、を知ることはできない。しかしどんなトレンドも遅かれ早かれ終わりを告げることは確実だ。

・それでは、サイクルに関して我々にできることはなにか。この件に関して私は確固たる独自の見解を持っている。この先どうなるか知る由もないかもしれないが、今どこにいるかについては、よく知っておくべきだ。

運の影響力を認識する
・投資の世界は、未来が予測でき、特定の行動が必ず特定の結果に繋がるような、秩序正しく論理的な場所ではない。むしろ、投資に関することに大半は運に左右される。投資家のあらゆる行動がうまくいくかどうかは、ほとんどの場合、さいころの目がどう出るかに著しく影響されるのである。

・決断が正しかったのかどうかを結果から判断することはできない。にもかかわらず人々は結果で評価を下す。そもそも未来は未知なのだから、良い決断とは、それを下したときに最適だったものである。従って、正しい決断が良い結果に繋がらないことは多々あり、逆の場合も同じことがいえる。

・短期的には、ランダム性そのものが、あらゆる結果を生み出しうる。相場変動の影響をまともに受けるポートフォリオの場合、マネジャーの技量の有無という要素は、相場の変動によって簡単にかき消されてしまう可能性がる。そしてもちろん、相場の変動はマネジャーの技量とは関係ない。

・世界を不確実な場所と見るなら、以下の点を同時に心がける必要がある。リスクに対して健全な尊重の念を抱くこと、未来がそうなるかわからないと意識すること、将来は確率分布の世界であると考え、それに基づいて投資すること、ディフェンシブな投資にこだわること、落とし穴に陥らないよう気を引き締めることだ。

ディフェンシブに投資する
・並外れた利益の獲得を狙うか、損失を回避するか。2つの投資アプローチのうち、私は後者のほうが確実だと考える。たいていの場合、利益を獲得するには将来起きる出来事についてある程度、正しく予測することが必要だが、有形資産価値が存在し、群衆の期待があまり高くなく、価格が低いことが確かめられれば、損失は極小化できる。私の経験から言って、より一貫した形で追行できるのは損失回避のアプローチである。

・ディフェンシブな投資というと高尚な響きがするが、要は「恐怖心をもって投資せよ」ということだ。損失の可能性を、知らないことを、質の高い決断を下しても不運や予期せぬ事態で台無しになる可能性を恐れるのだ。


落とし穴を避ける
・資金調達が容易すぎると、カネは間違ったところへと流入する
・ふさわしきないところに資金が投じられると、悪いことが起きる
・資金が過剰に供給されると、投資家は低いリターンと狭い「誤りの許容範囲」を受け入れて、投資先を奪い合う
・リスク軽視の傾向が広がると、より大きなリスクが生じる
・不十分な精査が投資損失をもたらす
・市場が熱狂に包まれると資金は革新的な投資商品へと集中するが、その多くは時の試練に耐えることができない
・ポートフォリオの中にある見えない断層線によって、無関係に見える資産の価格が連動する可能性がある
・心理的な要因やテクニカル要因がファンダメンタルズよりも強い影響力を発揮することがある
・市場が変化し、従来のモデルが通用しなくなる
・レバレッジは結果の度合いを増幅させるが、価値の増大にはつながらない
・行き過ぎた状態は修正される


付加価値を生み出す
・付加価値を生み出す投資家のパフォーマンスは非対称だ。上げ相場で達成するリターンの規模(上げ幅)は下げ相場で被る損失の規模(下げ幅)よりも大きい。相場環境が良いときに、逆境時の損失を超える規模のリターンを得るには、投資家個々のスキルに頼るしかない。これこそが、我々が追及する投資の非対称性だ。

・理論では、ポートフォリオのパフォーマンスは以下の数式で表される。
y=α+βx
上げ相場の時期に市場に後れをとらずについていくには、ベータの値が高く、市場との相関性があるポートフォリオを組まなければならない。だが、上げ相場でベータと相関性の助けを得るということは、下げ相場に変わったときに打撃を受けることを意味するのではないか。
下げ相場で市場よりも小さな下げ幅を維持できるようにし、上げ相場で市場と同等のリターンを上げるにはアルファ、別の言葉でいうとスキルに頼るしかない。


すべての極意をまとめて実践する
―この章はまとめである、今まで述べてきたことのポイントが書かれている―

最初の文章は
投資、あるいは投資キャリアを成功に導くうえで、最良の土台となるのは本質的価値である。投資家は、買いを検討している資産にどれだけの本質的価値があるのか、しっかりと把握しなければならない。本質的価値は様々なもので構成されており、それを評価する方法も数多く存在する。極簡略化して言うと、本質的価値を構成するのは、帳簿上の現金、有形資産の価値、その企業あるいは資産の現金を生み出す能力、そしてこれらの要素が増大する余地である。

―2回にわたりハワード・マークスの投資に対する考え方を「投資で一番大切な20の教え」から抜粋してお届けしてきた。

もし興味が沸いたら、手に取ってじっくり読まれることをお勧めします。この他にも日本語訳では「市場サイクルを極める」も出版されています。—

(10月31日付レポートより転載)

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