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アナリストコラム

2024年の株式市場の注目点 ―脱デフレの株式相場が始まるー -原田哲也-

2023年12月01日

当たりもしない来年の株式相場について述べてみたい。元来予想は当たらない(未来は分からない)と公言しており、日経平均〇〇まで上昇といったことを言うつもりはない。来年の株式市場に影響を与えそうな要素についていくつか取り上げて、過去の経験則も含めて考えを整理することは全く無駄ではないと思うからである。

先ず、日本株に最も影響のあると考えられる米国の景気、金利そして株式市場について見てみよう。

米国の景気見通しについては今もって本当に誰も分からないのである。COVID-19後の米国景気強さには恐れ入るしかない。FEDレートは2022年の初めは0-025%であったが現在は5.0-5.25%までに急上昇した。それにも関わらず23年7-9月期の実質GDP成長率(前四半期比年率)は4.9%、失業率は3.9%(2023年10月)と従前では考えられない水準である。今頃は景気後退(リセッション)に陥っているというのが、昨年の年末ごろの一般的な見方であったような気がする。自分自身も2023年の春から夏にかけて、米国景気は減速し、軽微なマイナス成長(ソフトランディング)に陥っているのではないかと考えていた。

こうした米国経済の驚くべき粘り腰の強さの要因は色々解説されているが、一言で言えばCOVID-19による経済活動停止の影響を抑止すべく繰り出した異例の財政・金融政策であったと思う。米国経済の構造変化や高金利への耐久性が高まっているのではないか等との見方が浮上したが、単純に未曾有の景気対策が主因であろう。

景気対策(効果)が巨大でありそのために長引いたが、ここにきて流石に効果が薄れてきているようだ。小売りのウォルマート、ターゲット、アパレルのギャップやアンダーアーマー等軒並み業績が悪化し始めた。また、航空会社からは旅行需要減退の便りも届き始めた。

2024年は景気減速、更には景気後退の可能性も十分考えられる情勢になってきている。

仮に景気後退に陥った場合、第二次世界大戦後の後退期間は平均11.1カ月(COVID-19の影響で極短期間落ち込んだ2020年を除く)である。2024年年初から後退期に入れば2024年中にもボトムをつけることになる。2024年半ばからの景気後退でも2025年半ばにはボトムをつけることになる。

景気後退に入れば当然をFED金利は引き下げられる(実際は先読みをして後退前に引き下げられる)。大統領選の年であることを考えればなおさらだ。長期金利も大幅に下がると思われる。

株式市場はどうなるだろうか。戦後の景気のピーク・ボトムとSP500のピーク・ボトムを比較してみても明確な規則性が見いだせない。

実は株式相場動向を決めるのは金利である。UBSによれば1980年代以降の米国株式の調整場面では高値から底値までの下落要因の89%はPERの低下で説明ができる。底値から高値までの株価回復の85%もPER上昇によるものだということだ。つまりは景気の変動を主因とした企業業績の増減は株式相場に直接的には大きな影響を与えていない。PERを左右するのは勿論金利である。金利の行方が2024年の米国株式の行方を握っているのである。

CMEのFedWatchのコンセンサス(最頻値)では2024年は7月からFEDレートの利下げが始まり、年内に都合4回0.25%ずつ引き下げられる予想である。年末は4.25-4.5%となる見通しだ。

この前提となる物価見通しだがFRBでは2024年10-12月のコアPCEデフレータは2.6%と2023年10-12月の3.7%を大きく下回る予想をしている。

以上が米国の2024年の株式市場を取り巻く環境である。景気が減速していく中で、企業業績への期待は高くないものの、株式市場には金利低下というフォローの風が吹くと見ている。

さて日本の株式市場だが、まず米国の株式市場の好調が下支えをする。次に日本の株式市場の主役となった半導体産業が回復に向かうことが見込まれている。ご存じのように半導体業界にはサイクルがある。2022年の年初あたりをピークにして2022年後半から2023年後半にかけて後退期に入っていた。しかしようやく2023年9月に前年同月比プラスに転換した(WSTS出荷統計:ドルベース)

WSTS(世界半導体市場統計)の見通しでは半導体出荷は2023年が▲10.3%に対し2024年は11.8%増へプラスに転じる。半導体の出荷は回復に転じると2~3年は上昇を続けるので2024年から2025年にかけて半導体関連企業の業績は堅調な伸びが予想され、株価上昇も期待される。

もう一つの期待要素はデフレ脱却である。日本の場合あくまでもマイルドなインフレであろうが、過去30年間のデフレ・ディスインフレ時代からモノの値段が上がる時代になるのである(ついでに金利も上がるわけだが)。

企業業績は名目である。GDPと違い実質は使われない。単純に言えばモノの値段が下がっていけば企業の売り上げは減少するのである。売り上げが減少する中で利益を伸ばすのはたやすいことではない。失われた30年の間、日本の企業はデフレという厳しいアゲンストの風の中で経営を迫られたのである。しかし、インフレの時代では同じ数量を販売しても売り上げが増加する。勿論、原材料や人件費、輸送費なども上昇するが、売り上げとコストの上昇率が同じならば、利益額は増加する。その利益額を株数で割ったものがEPSである。だから当然インフレの時代にはEPSが増加する。そこに企業の努力が加われば更にEPSは拡大する。

既に広範な値上げによる企業業績の好調ぶりは2023年に出始めている。

次に重要な要素として取り上げたいでのが地政学による日本の立ち位置の変化である。

14億人を超える人口を抱えた中国が急成長し米国を脅かす存在になってきた。世界の覇権を米・中で争う時代に突入したのである。

太平洋の両岸で対峙する米中。米国における同盟国としての日本の重要性は嘗てないほどに高まっている。1980年代から90年代に辛酸を味わった半導体戦争の時とは状況が180度の大転換をしている。それは米国IBMが日本に2ナノの半導体製造技術を供与することでが如実に表している。

米中対立は長期に亙ると見られており、米国の対中規制も簡単には終わらない。不動産市場の崩壊と急激な人口減少も手伝って中国の経済が長期停滞に陥ったことは明白である。今まで中国に投資してきた資金が引き上げ、代替投資先としてインフレで企業業績の好調が続くことが見込まれる日本に注目が集まることは十分考えられる。既に一部にそうした動きがある。

新NISAは今更述べる必要もないだろう。大きくはこの4点が日本の株式市場を取り巻く好環境である。こうしたフォローの風は2024年限りではない少なくとも3年から5年は続くと思われる。

勿論マイナスの要素もある。
第一に、インフレによる金利上昇である。第二に中国経済の衰退による中国需要の減少。更には、COVID-19以来タガが外れたような大盤振る舞いの景気対策による財政悪化。

また、米国の大統領選における不透明感。新たな紛争が起点となって起こる資源・エネルギー価格の高騰などが懸念要因としてあげられる。

しかし、現在想定していない世界を揺るがすような大きな事変が起きなければ、
プラス要因―マイナス要因で見ればプラス要因が上回ると見ている。

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