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アナリストコラム

シリコン列島日本の誕生 ―ゲームチェンジが始まった― -原田哲也-

2024年01月31日

今年1月24日から26日にかけて東京ビッグサイトで開催されたネプコンジャパン2024において毎年恒例である産業タイムズ社会長の泉谷 渉氏の講演がいつにも増して熱を帯びていたので、皆さんにお届けしたい。

公演のタイトルは「電子デバイス産業が世界経済をリードする時代がやって来た!」サブタイトルは―半導体、電子部品、プリント基板の設備投資は一気拡大の機運―である。

まず半導体業界の動向である。
2024年の半導体チップ生産は15%増、半導体製造装置は25%増になる。2025年は半導体チップ生産が10%~15%増、半導体製造装置は20%増になる。

※因みに米ガートナー社の予測では2024年の半導体市場は16.8%増、2025年には15.5%増。

経済産業省は世界の半導体市場は2030年に100兆円になると予想しているが2025年に105兆円になる。5年も前倒しになる勢いだ。

ここにきてAIサーバーの勢いが止まらない。2023年のAIサーバーの出荷台数は120万台を超え、前年比40%増となった。2024年も40%増を続けるだろう。

中国は半導体産業の戦略を方針転換した。12ナノから60ナノのボリュームゾーンの半導体への投資を中心に行い世界シェアを60%~70%に引き上げようとしている。そのため中国はこれまで半導体産業に16兆円の投資をおこなってきたが、2024年から2030年にかけてさらに13兆円の投資を行う計画だ。日本の半導体装置メーカはミドルクラスに強いのでこの中国の動きは追い風になる。

復活
泉谷氏は従来、PCやスマホは成熟し半導体の需要の牽引役はエッジコンピューティング、すなわちスマートグラスやスマートウオッチに移っていくと見ていたがその意見を転換したと述べた。その理由はサムソンのAIチップを搭載したスマホ「GalaxyS24」の登場である。この同時通訳などかできるスマホの登場によって再びスマホ需要の拡大、さらにはスマホ向け半導体の成長が期待できる。またAIチップ搭載のPCも登場しており半導体需要の4割と2割合わせて6割の需要先の復活でAIサーバー、エッジコンピューティングの成長と並んで半導体需要を大きく拡大させる時代に入ってきたという認識だ。

パワー半導体
ロームは宮崎に40万平米という膨大な土地を取得して今後数千億円をかけてSiCの工場を建設する計画だ。勝負に出てきたのだ。しかし、単独では限界があるので東芝との連携が進む可能性がある。

富士電機も青森でSiC工場の建設計画がある。ここで生産された製品をトヨタに収める可能性があるのではないか。また、三菱電機も大型投資を検討中といわれている。

ただ、中国がSiCでも大攻勢をかけてきており、現状ファンドリーを含めて23社が参入してきている。今後の競争激化は必至で日本のパワー半導体メーカの再編の話も浮上してきている。

日本国内の半導体投資
日本国内の半導体投資を牽引するのは台湾TSMCである。12ナノ~48ナノまでの半導体生産を行う予定の熊本の第一工場は今年2月24日が開所式だ。この工場には1.2兆円が投資された。第二工場は7ナノのチップを生産する予定だが、建設費用は2兆円といわれている。第三工場、第四工場も構想に挙がっているが、熊本ではないかもしれない。その理由は熊本に集中するリスクと人材の取り合いだ。熊本や九州では半導体関連企業の工場建設が目白押しで採用難に陥っている。そこで浮上するのが全く定かではないが大阪万博跡地ではないか。
Rapidusも負けてはいない北海道に日本の半導体関連としては最大の100万平米の工場敷地に第一期で5兆円(すでに建設は始まっている)、第二期でさらに5兆円の工場を建設予定だ。当初は2ナノの量産化を目指すが、本命は1ナノであろう。需要先は60%がAI半導体、すでにその一部をNVIDAが予約済みである。40%が自動車向け半導体ではなかろうか。

IBMとimecの技術を利用しており、実はRapidusはNATOの半導体戦略工場ともいえる位置づけなのである。

広島でも動きがある。米マイクロンが5000億円かけてHBMの工場を建設する計画だ。続いてディスコが大型投資を発表した。マイクロンはさらにもう一つ工場建設の話もあるようだ。

更に、仙台でも台湾PSMCの8000億円の工場建設が表明された。今仙台はこの話題で沸き立っている。東北には東京エレクトロン、キオクシア、さらには先述の青森の富士電機のパワー半導体工場計画などがあり、さながら東北シリコンロードといった状況になっている。対して先ほどの広島は瀬戸内バレーではないか。

半導体材料
半導体の微細化の限界が近づいている。物理的には0.5ナノが限界といわれている。その先は量子コンピュータなのかもしれないが、実用化は10年以上先だ。その間を埋めるのは後工程の進化である。今後、後工程への投資は従来に比べ3倍から5倍増えるだろう。
現在パッケージの世界市場は4~5兆円だが、今後年率12~15%成長を遂げ13兆円になるといわれている。まさにゲームチェンジが起こっている。

日本政府もようやく半導体産業の重要性に目覚めたようだ。今回の補正予算に2兆円を掲げた。今後デバイスメーカーの投資の1/2、材料メーカの1/3、装置メーカにも1/3の補助を検討しているようだ。

半導体はそれを制する者は世界を制するともいわれる最重要な戦略物資になったと同時に国の経済に活力を与えるものでもある。熊本県のGDPは6兆円だがTSMCだけで7兆円のプラス効果があるという。また北海道ではRapidusの第一期だけで15兆円の効果があるという。

日本政府もようやく半導体産業こそ新たな日本再生のカギと分かったようだ。

(1月31日発行のレポートより転載)

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