人間五十年、下天(化天)のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり
一度生を享け、滅せぬもののあるべきか
これを菩提の種と思ひ定めざらんは、口惜しかりき次第ぞ
織田信長が好んで謡い舞ったといわれる「敦盛」のフレーズであるが、かなりの方がこれを能と勘違いしている。能は、基本的にはシテ(主役)は舞うだけであり、謡(うたい)という8人の歌い手が状況やシテの心情を説明するという形式を取っている。謳いながら踊る形式は幸若舞(こうわかまい)と言われる(能や歌舞伎の原型とされるが、現在では福岡県みやま市に重要無形民族文化財として残るだけである)。
また、この作者は世阿弥と勘違いされている方もあるようだ。同じ演目名「敦盛」が世阿弥の作品にあることが理由だと思われるが、幸若舞の「敦盛」は作者未詳である。
さて、化天とは、六欲天の第五位の世化楽天のことを言う。天上界の中でも人間界に近い下部の6つの天は、依然として欲望に束縛される世界であるため、これを六欲天というそうだ。
「敦盛」の原文は、化天であるが『信長公記』では下天と表現されている。
下天は、六欲天の最下位の世で、一昼夜は人間界の50年に当たるとされる。
「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり」は、「人の世の50年の歳月は、下天の一日にしかあたらない」という意味になる。人間50年というのは人生50年(当時の寿命)と勘違いされているが、これはどうやら間違いのようである。
いずれにしても人生は短い。その短い人生をどのように生きるのかということを信長は自問し続けていたのかもしれない。
それにしても川島なお美さんの早すぎる死去にはただ驚くばかりです。ご冥福をお祈り申し上げます。
By:wildernesswolf