メニュー
TIW Cafe

鬼の目にも涙 -Cranberry Jam-

2015年08月14日

 「ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました。」

これは少し前に話題になった広告コピー作品です。作品には泣いている鬼の子供の挿絵が添えられていました。ある物事を、一方的な視点だけから見るではなく、違った視点からも考えることの大切さを訴えています。

鬼退治の伝承は、日本各地で散見されます。お伽話「桃太郎」のルーツには諸説あるようですが、桃太郎が鬼を退治して財宝を手にする話は、弥生人が耕作地の拡大を目指して縄文人を駆逐していく話が土台になっているという説があります。弥生人は自らが持つ北方系の顔を人相のよい顔とし、縄文人が持つ南方系の太眉や起伏のある目鼻立ちを、鬼の顔としたのかもしれません。

他にも、岡山県に伝わる「温羅伝説」は桃太郎の原型と言われています。「温羅(うら)」とは古代吉備地方を統治していた豪族で、岡山県の鬼ノ城付近を拠点としていました。しかし大和朝廷が派遣した吉備津彦命によって討伐され、元々の支配者だった温羅は、鬼とされました。

一般的には節分の豆まきでは、「鬼は外」と言います。しかし東北地方には、「鬼は内」と言うところがあります。青森県弘前市字鬼沢の鬼神社もその一つです。鬼神社は通称おにがみさまと呼ばれ、鬼が祀られています。東北地方は大和朝廷が最後に平定した場所であり、大和朝廷に従わない先住民の蝦夷が、鬼とされた可能性があります。ちなみに鬼が出入りするとされる「鬼門」の方位は、北東です。

鬼が登場する昔話は数多くあります。お伽草子や狂言や今昔物語にも鬼が出てきます。鬼は、人間とは違う区域に住んでおり、凶暴なので恐怖の対象です。でもどこか間抜けで単純で、酒と踊りが好きで素朴で時には騙されて、最終的には人間に負けて財宝を取られてしまいます。もしかしたら、鬼は、もともと人間だったのではないでしょうか。海外にも、征服された先住民が妖精やコビトになる話は数多くあります。

同じ出来事でも、それぞれの立場によって、見方や捉え方が大きく異なることがあります。桃太郎にとってのハッピーエンドは、退治された鬼の子供にとっては悲しい結末だったことでしょう。めでたしめでたしの裏では、どこかで誰かが涙を流しているかもしれません。

Written by Cranberry Jam

TIW Cafe 一覧 TOPへ戻る