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二千年ハス -Cranberry Jam-

2015年07月24日

先日、久しぶりに古いパソコンを立ち上げたら、青い画面と共にエラーメッセージが表示されました。これはシステムに致命的なエラーが発生した時に表示されるもので、英語では「死の青画面(Blue Screen of Death)」と呼ぶそうです。なんともおどろおどろしい名前を付けたものです。古いパソコンが壊れたところで特に支障はないのですが、どうしても見つからない昔の写真データがあり、もしかしたら古いパソコンの中かなと思って探そうとした矢先の出来事でした。

さて、梅雨も明けて暑さが身体にこたえる季節となりましたが、ハスの花が見頃を迎えています。上野の不忍池を埋め尽くす一面のハスの花は、東京の夏の風物詩です。残念ながら今はもう無くなってしまいましたが、去年までは池の畔に「蓮見茶屋」がありました。蓮見茶屋で一息ついてお茶をしながらハスの花を眺めるのは、いとをかしき格別な時間でした。

ハスは、地下茎による栄養繁殖で個体を増やします。栄養繁殖は、無性生殖の一種です。受精による細胞の融合を経ずに細胞分裂だけで増えるので、新しく生まれたハスは、親のハスと完全に同じ遺伝情報を持ちます。すなわちクローンです。このような無性生殖には2つのメリットがあります。雄と雌が出会う必要がないので、生殖が容易で短時間に個体数を増やせること。親個体と全く同じ形質を持つために、同一の生育環境下では成長が保証されること。一方で、1つの大きなデメリットがあります。それは、様々な環境の変化に対する適応力が低いことです。全ての個体の遺伝的性質が同じなので、環境が不利に変化した場合に全滅する恐れがあるのです。

昭和27年、とあるハスの花が大輪を咲かせたことがニュースになりました。弥生時代の地層から発掘されたハスの種を発芽させ、育成することに成功したのです。ハスの種はとても硬い外皮に覆われているため、そのままでは発芽しません。外皮に傷が付くと、その割れ目から芽吹くことがあります。発掘された種は、放射性炭素年代測定によると、なんと二千年も前のものでした。時空を超えて、生命が蘇ったのです。

ハスは、普段は無性生殖により低コストで繁殖しています。しかしイザという時に備えて、2千年も耐えうるような硬い種を持っています。それは、環境変化による全滅に対するリスクヘッジなのでしょう。天変地異など何らかの要因でその硬い外皮にキズが付いて割れ目ができた時にのみ、種から芽を出します。このシステムは、絶滅を回避するための遺伝子バックアップ機能と言ってもいいかもしれません。まさに、生命の神秘です。

さて、私の古いパソコンは、ブルースクリーンのまま一向に復旧しません。もう正常な状態に戻すのは難しそうです。昔の写真ファイルは、見つからないまま。おそらくこのパソコンにしか入っていません。こういう時に備えて、ちゃんとバックアップを取っておくべきでした。そう、二千年ハスみたいに。

by Cranberry Jam

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