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小鹿みき -wildernesswolf-

2015年01月30日

そうだった。出会いは”小鹿みき”のお店だった。

今週、或る上場会社の社長(以下、K社長)にお会いした。K社長とは最近になってSNSで偶にやり取りをするが、最後に直接お会いしたのは10年ほど前、上場した直後だった。
その時は日の出の勢いで売上がガンガン伸びていたのであるが、程なくして市場の成熟化と競争激化から業績を悪化させていった。

K社長に始めてお会いしたのは、17?18年前。まだ会社を立ち上げて数年しか経っていない時期だった。初めて出会った場所は”小鹿みき”が経営する名古屋のメンバー制カラオケラウンジ。当時、非常に親しくしていた経営者が名古屋に居り、その経営者に連れられて行った”小鹿みき”の店でK社長を紹介された。K社長はその経営者の大学の同級生だった。

その時代から親しく知っているだけに上場を果たした時は本当に嬉しかったし、業績が悪化してゆく時期は忍びない心情であった。売上高はピーク時の3分の1以下になり、従業員も半分以下になった。それだけに、今回の訪問に際して、ビジネスアイディアと紹介可能な取引先を頭に描いて行った。

しかし、行ってみるとこちらの予想に反して、満面の笑みを浮かべたK社長に迎えられた。ビジネスモデルの転換を数年前に行ったこと、その結果として目先は利益が出ないが営業キャシュフローが増加していること、急速に製品が普及しつつあること、提携の申し入れも沢山来ているというお話を伺った。お話を伺って曇りのない笑顔に合点が得られた。私の考えた陳腐なビジネスアイディアは披露するまでも無かった。

創業してまだ間もない頃、上場直後の頃、そして現在。K社長のそれぞれの顔を見てきたが、記憶中の人物と現在の人物には大きな隔たりがある。同一人物であることを頭で知っていなければ認識できないような気もする。
それだけ経営危機を乗り越えた経営者には重みも深みもあるということだ(実は凄く太ったというのもあるが)。
そしてその危機的状況を共に戦った役職員との間には固い信頼関係が構築されている。ビジネスモデルもそうだが、こんな素晴らしい会社を、私が感じたのと同じ感動をもって理解できるファンドマネージャーがどれだけ居るだろうか、と思ってしまう。

ただ、投資対象としての問題は、株価がネットトレーダーの玩具になってしまっていることだ。その結果、妥当なバリュエーションと思われる株価よりも4?5倍高い水準にあり、毎日激しく上下動する。1日の出来高が発行済み株式数を超過することも珍しくはない。
本来はレポートに書いて紹介するべきところであるが、それを行わないのは株価を刺激するような材料を下手に提供したくないからである。
2?3年の内に実績が株価に十分追いついてくるだろう。

さて、K社長を私に紹介してくれた名古屋の経営者であるが、2000年代の前半に彼の会社は倒産してしまった。一時期は100人を超える社員を雇用し、上場も視野に置いていた会社であったが、業界の不況によって多くの同業者同様に灯を消してしまった。しかし、もともとがやり手であるだけに、幸い現在はコンサルタントとしてかなりの活躍しているようだ(K社長によれば俺よりも全然儲かっている、と)。

実は、倒産してから数年後に名古屋まで彼に会いに行ったことがある。
再起を心底期待していたのであるが、「私はもう二度と自分で事業をやったり、社員を雇ったりなんてことはやりたくないのです」と静かな口調で彼は言った。
その言葉は今でも重く胸に突き刺さっている。実際、その言葉通り、今でも直接事業を立ち上げることからは遠ざかっている。

経営者の資質って何だろうかと考える。
名古屋の経営者とK社長の違いはなんだろうか?
経営が傾いた会社では、自己保身から手のひらを返す人間が少なくはない。
結局は、騙されても欺かれても人を信じたいと思えるかどうかなんだろうな。

K社長の会社には右腕になっている40歳台前半の役員が居る。
一番厳しかった時期に、K社長は彼に言ったそうである。
「この会社は潰れるかもしれないが、その時でも最期まで付き合ってくれないか」、と。

“小鹿みき”のお店に行くことは今でもありますか?
笑いながらK社長は言った。
「いや、もう全く行きませんよ。」

注:小鹿みき 1949年生まれ 19歳でNHKのオーディションに合格。TBSドラマ「肝っ玉かあさん」「ありがとう」などで活躍。

by wildernesswolf

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