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感銘を受けた一冊 「デリバティブとはさみは使いよう」 -Forever Young-

2014年05月02日

80年代半ば過ぎから90年代末まで生命保険会社の資産運用部門で仕事をした。最初に外国債券の運用を経験させていただいた。日本円から米国国債など外貨建ての債券の売り買いをする仕事である。プラザ合意後、海外の高金利を享受できても円高が急速に進んだ時代で保有する外国債券の円ベースの価値の目減りに悩まされた。そこで、為替の先物売り予約で円高リスクのヘッジに努めた。例えば半年後に米ドルを売る予約をしておく。そうすれば、どんなに円高が進んでも予め予約した為替レートで外国債券を円に転換できる。円高、時には意外にも円安進行といった相場変動によって円ベースの収益が想定から大きくぶれる心配がなくなる。円高リスクから開放される。 

当時、例えば1米ドル100円の半年後の予約レートは95円。米国とは逆に日本より金利の低い独マルク、例えば1マルク80円の半年後の予約レートは83円といったレートが銀行から提示される。どうしてこんなことが起きるのか。日本と海外との金利差が影響しているということはわかるのだが明快に解説した説明書がなかなか見つからなかった。

掲題の書を先般、知人が出版した。典型的なデリバティブ取引である「通貨オプション」の正しい使い方を説明する中で、先ず為替リスクヘッジの基本、為替先物予約を引き合いに出し、先物予約レートの決まり方に関して解説するくだりがある。とてもわかり易いので要点を引用させていただく。今、手元に半年後に100ドルを受け取る輸出為替債権があるとする。そして、この輸出債権をヘッジしたい。つまり、半年後にドルを売って得られる円収入を今、確定したい。この場合、半年間の時間差をドルの借入金という債務で埋めてしまえばよいと説く。借り入れたドル資金は今、使う必要がないので円に換え円預金で運用する。そして、半年後に手にしたドル輸出為替債権をドル建て借入金の返済に充てる。だから、ドルでの借り入れ金利と円での運用金利の差が半年後の先物為替レートに反映(例えば今の1米ドル100円の半年後の予約レートは95円というように)されるのだ。

その後、為替ヘッジ担当が長じて融資部門で保有する貸付債権の金利リスク(例えば固定金利は世の中の金利が上がれば価値が下がる)の管理をすることになった。その際、ヘッジ手段として金利スワップ取引(固定金利と変動金利の交換)というデリバティブ(オフバランス)取引の導入を図った。解り易く書かれた解説書がなく回りや上部の説得に随分苦労した。その際に同書の著者である岩橋氏には随分とお世話になった。

デリバティブ。被害が出ると、あたかも、商品が悪いと決めつけたようにマスコミが取り上げる。過去の話になってしまったがサブプライムローンにも確かにクレジットデバティブが関係した。また、デリバティブには複雑でわかりにくく、気がつかない間に損をさせられてしまうような取引とのイメージがある。ただし、身を持ってデリバティブを使い仕事をしてきた立場からはこんなに使い勝手がよい良く切れるはさみはない。要は取引が悪いのではなく、使い方であり、誤れば怪我につながるはさみなのである。
既にデリバティブは金融取引にはなくてはならない取引となっている。読者の中にも興味を持たれる方もあろう。同書では複雑なデリバティブ基本商品のいくつかの仕組みがやさしく解説される。だからといって入門書ではない。より深く、高度なデリバティブの世界に入って行く基礎作りにもなる。そして、その使い方に最も焦点が当てられているところがこれまで少なかった視点でもあり素晴らしい。一読に値する書と考える。

Written by Forever Young

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