朝晩が冷え込みすっかり秋めいてきました。秋といえば食欲の秋。アツアツの肉まんをフーフーしながらモフモフ食べたい今日この頃です。
先日文化庁が国語に関する世論調査の結果を発表しました。その中で注目されたのがオノマトペ(擬音語・擬態語)です。短く直感的に音で伝えることができるオノマトペ。近年この使用頻度がジワジワ増えています。「通貨をジャブジャブ」、「国土がボロボロ」、「日米関係がグチャグチャ」など、国会での使用回数は1990年には年間1万5千回程度だったのが、現在は4万回にまで増えました。
コンビニ業界では魔法の言葉と崇められているものがあります。「モチモチ」です。商品名に「モチモチ」を入れるだけで、売り上げが2倍に増えるというのです。美味しいと感じる言葉のアンケート調査によると、10年前は「口溶けのよい」、「舌触りのよい」、「コシのある」、「とろける」などが上位だったのに対し、現在は「モチモチ」、「もっちり」、「サクサク」、「ホクホク」などが上位を占めています。
製造業でも新たな商品開発のツールとして利用されています。ある自動車部品メーカーでは車の内装用に、金属に見えるプラスチック素材を開発しました。以前は、プラスチックの表面を物理的に金属に近づける為に、表面の凹凸を減らすべく研磨していました。しかしオノマトペを指標にしたアンケート調査をしたところ、本物の金属にある「ザラザラ感」が無いとの結果がでました。そこでメーカーは180度方向転換し、逆に表面の凹凸を増やしたところ、8割の人がより金属に見えるようになったと回答しました。物理的に測れない差を、オノマトペによって区別できたのです。
スポーツ指導でもオノマトペは活用されています。例えば陸上競技では、コーチは「だめだ、グイグイが足りない」のように指導します。トラック競技の理論は、ここ10年で急速に進化し難解で複雑になりました。10年前と比べてチェックすべき動きのポイントが30倍にも増えました。「いいか、足首を曲げて膝を下に向けて重心を前に移動させた瞬間に逆の膝を引き上げて地面と水平に・・・」と指導するよりも、「もっと膝をグイグイだ」のようにオノマトペで新しい感覚を作り、それを手掛かりに運動のイメージを膨らませる方が上達が早いのです。巨人の長嶋監督も松井選手の指導にオノマトペを多用していました。超一流の2人だけにしか理解できない表現もあったことでしょう。
医療の現場でも重宝されています。うつ病や不安障害などの患者が抱える言いようもない不安を、オノマトペで表現してもらうのです。眩暈という同じ症状でも、患者によって表現が全く異なります。「頭がむにょむにょする」、「頭がメリメリする」、「頭がゾゾッとする」。オノマトペによるカウンセリングは、医師が患者をより深く理解するだけでなく、患者自身が自分の症状に正面から向き合えるようになる効果があります。漠然と感じていた言葉にできない不安を、「モニョモニョ」のような具体的な単語に置き換えることにより、その不安に慣れて制御できるようになるケースもあります。
脳の働きを見ると、例えば「急いで歩く」と聞いたときは脳の言語野の一部しか活動してないのに対し、「ずんずん歩く」と聞いたときは、脳の広い範囲が活動します。「ずんずん」という響きから、その歩行者の大胆さや気持ちの高ぶりなど豊かなイメージを喚起するため、脳が五感を総動員して処理するのです。何とも言えない感覚や豊かな情景をいとも簡単にサラリと伝えてしまう音の爆弾オノマトペ。普通の言葉ではそぎ落とされてしまう感触や情感は、オノマトペの中に引きずり込まれて凝縮します。短いながらも感情的な情報量が豊かで、日本語独特のミラクルワールドを形成しています。
今日は特に朝が冷え込みました。ホクホクの焼き芋をハフハフ言いながらモリモリ食べたい気分になりました。
Written by Cranberry Jam