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コトダマ -Cranberry Jam-

2013年01月18日

お正月に浅草に行きました。散歩がてら隅田川沿いまで行き、「新年の目標は何にしようかしら」とぼんやり考えながら歩いていました。空には薄モヤのような雲がかかっていて、言問橋からはスカイツリーが真正面に見えましたが少し霞んでいました。言問橋の名称は、『名にし負わば いざ言問わん 都鳥 我が思ふ人は ありやなしやと』 という在原業平の和歌に由来しています。通りを行き交う人々からは、新年の挨拶を交わす声が時折聞こえてきました。

「明けましておめでとうございます」 これは元来は歳神様を無事にお迎えできた事を慶ぶお祝いの言葉です。英語など他の多くの言語では、年が明ける前の年末にも 「Happy New Year!」 のように言うので、同じ挨拶言葉でもそのニュアンスは大きく異なるようです。日本には古くから言霊信仰があります。良い言葉には良い霊が宿るとされ、逆に悪い言葉は忌み言葉として避けられます。世界最大のお墓で有名な仁徳天皇(16代)は、『高き屋に のぼりて見れば 煙立つ 民の竈は 賑わいにけり』と民の安定した暮らしを和歌に詠みましたが、これは良い言霊を放つことで良い国になるよう祈った国褒めの歌だとも言われています。

一昨日の16日には歌会始の儀が執り行われました。600年以上前に起源を遡る宮中の伝統行事です。平成9年の歌会始では今上天皇が 『うち続く 田は豊かなる 緑にて 実る稲穂の 姿うれしき』 と詠まれており、先の仁徳天皇の歌とどこか相通ずるところを感じました。今回の歌会始のお題は「立」。全国津々浦々の老若男女から計1万8千首の応募がありました。入選すると天皇陛下に拝謁を賜り、その御前で古式ゆかしい節回しで歌が詠まれるという誉れに与るので、私も毎年応募だけはしています。あと50回くらいはチャンスがあるので、いつか死ぬまでには・・と願っています(笑)。 選考基準は純粋に歌の良し悪しのみで、職業や家柄は問われません。西洋では神の前の平等、近代では法の下の平等ですが、日本は古来から和歌の前の平等であり、例えば『万葉集』では天皇の歌と並んで防人や農民や遊女や乞食の歌までも選ばれています。良い言葉によって紡がれた良い和歌であれば、8世紀でさえ貴賎は問われなかったのです。なんと素晴らしい!

昨年は『ネガポ辞典』が売上を伸ばして話題になりました。ネガティブな言葉をポジティブな言葉に変換するための辞典です。例えば「キモい」と言いたい時は「ミステリアス」と言い換えるよう提案されています。ネガティブな言葉は、心に悪い影響を与えます。人称を区別できるのは大脳新皮質だけで、自律神経や快・不快を司る古い脳は主語を判別できないからです。「お前キモい」と発言すると、自分の脳も不快物質で満たされて相手と同様のダメージを受けるそうです。『ネガポ辞典』が売れたのも、悪い言葉を避けて良い言葉を大切にするという日本古来の伝統が影響しているかもしれません。

さて言問橋のたもとを左に折れ、言問通りを歩いて三社様(浅草神社)に向かいました。神社が近づくにつれ晴れ着の人が増え、華やかな彩りが正月気分を盛り上げてくれます。「そうだ!」 美しい晴れ着を眺めていてふと思い立ちました。 「今年の目標は、『美しい言葉だけを使うこと』 にしよう!」 新年の目標が決まると、心のモヤモヤが消えてとても晴れやかな気持ちになりました。空を見上げると、いつの間にやら薄モヤの雲はどこかへ行き、透き通った青空が広がっていました。

『隅田川 言問い歩き かすみ雲 三社詣でて 晴れ渡るかな』

Written by Cranberry Jam

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