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調査や分析が好きだと言う人が証券アナリストには向かない理由 -人事担当者-

2012年11月09日

(もしかしたら少数意見かもしれないし、ご批判も受けるかもしれませんが思っていることをそのまま書きます)
数ヵ月に一人はアナリスト志望の未経験者からの問い合わせがある。
そのうちの何人かは面談して、志望動機を聞くと殆どの人が「調査や分析が好きだから」ということを理由に挙げる。
申し訳ないけどその時点で殆ど”失格”である。
 
その理由は大きく2点ある。
最初の理由は、アナリストはプロフェッショナル職であるという点である。「私はピアノを弾くのが好きだから」という理由でピアニストになれるであろうか? 「私は野球が好きだから」という理由でプロ野球選手になれるだろうか?言うまでもなくNOである。もちろん、”好きだから”というのは必要条件の一つではある。しかし、十分条件ではない。「他人より上手にピアノが弾ける」、「他人よりバッティングが上手い」などの条件があってはじめてエントリーできるのではないだろうか。
「具体的にはどんな調査・分析を行ったのですか?」
「面白い事象は何かありましたか?」
「仮説で構わないので貴方がオリジナルで考えた理論のようなものを何か教えてください」
「試みにレポートを書いたことはありますか?」
「いままで企業にどのような問い合わせをしましたか?」
「個人向けIR説明会にはどれだけ行きましたか?」
 
誰でも何か自分の興味のある分野は存在するし、それについて調べたりすることは楽しいものである。でも、それは殆ど全ての人に(誰にでも)あるものなのだ。だから、全く理由にはならない。
プロフェッショナルを目指すのであれば、その時点で可能な範囲での行動をしてみて「自分が既存のアナリストと勝負できる何かを持っている」と少なくとも自分では思っていることが重要である。エレクトロニクスの専門知識を持っている。インターネットのあらゆるサービスについて誰よりも知っている。株式トレーディングの必勝法を考えた。これらが本当に役に立つかは分からないが、プロとして通用する(ようになれる)と本人が思っていない限り、意味が無い(そういう信念みたいなものを持っていない限りは直ぐに折れてしまう)。

話は逸れるが、私は10代の頃、「プロ馬券師」(これは勝手に作った名称です)を目指したことがある。毎週土日は競馬場に行ってパドックから馬を見ていたし(札幌・函館・小倉は行ったことがありませんが東京、中山、京都、阪神、新潟は行った)、月曜から金曜までスポーツ新聞の競馬欄を小まめにチェックし、800万下クラス(当時)以上の馬は全部記憶していたし、レースは全て頭の中にイメージを記録していた(家庭用VTRの普及する前の時代ですから)。その結果、競馬で飯が食えると思っていたし、実際に12週にわたって勝ち続けた時期もあった(毎週、銀座で鮨を食っていた)。しかし、デイトレーダーと同じように勝ち続けるためにはかなりストイックな生活を続けなければならない。それは或る切っ掛け(交通事故)で途切れてしまったが、今でもひたすら集中すれば競馬で飯が食えると信じている。「おいおい風呂敷ひろげてんじゃねーよ!」という声が聞こえてきそうであるが、この程度の大口が叩けないでアナリストに成りたいなどと気安く言ってほしくはない。
 
二つ目の理由は、「調査・分析が好きだ」と言う人は、自分自身の趣味に走りやすい。ただ自分自身の知識欲を満足させるために取材に行ったり、細々としたレポートを書いたりしている。それで自分はきちんと仕事をしていると勘違いしている。「調査・研究」をすることが目的化しているのである。
「調査・研究」はあくまでも手段であって目的ではない。それでは何が目的なのか?
言うまでも無く、証券アナリストの目的とは、顧客である投資家に対して有効な投資機会を提供することである。調査・分析は、投資アイディアの確からしさを高めるために行う手段であってそれ自体は目的ではない。つまり、顧客意識が重要である。面白い銘柄を見つけたらそれを喜びそうなお客さんの顔が何人かは思い浮かべられなければならない。自分が書くレポートが顧客に貢献することや所属している会社の損益に貢献することを考えなければならない。
「あなたがこの銘柄を担当することで(所属する)会社にとってはどのようなメリットがありますか?」と聞かれてから考えているようでは失格である。そんなビジネス感度のない人間が、企業=ビジネスを評価することが出来るわけがない(当たり前でしょ!)。
 
上記二つをクリアしてアナリストとしての適性を持つような人材は、実はアナリストを志望する方には少ないのではないかと考えてしまう。
顧客に対して価値を提供することを使命と考える者は、手段(職業形態)をアナリストに限定する必要はない。営業でも、企画でも、総務でも、どんな部署でも本人の意識次第で創造性に富んでいる。アナリストに本当に向いている人材は実はそういう人たちなのだが、結果的にそうした人材は、他のことも出来てしまうので、アナリストになる人間は決して多くはない。アナリスト経験者でも潰しの効く人間とそうでない人間をイメージすれば分かり易いはずだ。実際、「この人は出来るなぁー」と思うようなアナリストはヘッジファンドを起業したり、M&Aコンサルタントで独立したり、上場企業の役員になったり・・・・実業の方に進む人が多い。
余談だけど私自身は、アナリストに成りたいと思ったことがないし、証券会社のアナリストをやっていた時期でも自分はアナリストだと思ったことはない。一番最初に調査部に配属されたときは、こんな資料室みたいなところで自分の人生は終わってしまうのかと悲壮感にくれたものだ(本当に悔しくてたまらずに涙を流しました)。
アナリストでなければ何かと言えば、自分自身の本分は”企画屋”だと学生の頃から思っている。投資家に対して、高いパフォーマンスが期待できる投資機会の企画を提案しているのであって、調査・分析はそのための手段でしかない。だから、アナリストと称することにも呼ばれることにも(実はかなり)抵抗がある。私自身の本分からすれば「プランナー」とか「デザイナー」の方が意味の上からは近いかもしれない。しかし、「インベストメントプランナー」とか「マーケット・デザイナー」と称したら怪しい職業にしか聞こえない。また、いちいち説明するのも煩わしい。だから、アナリストと便宜的に名刺には書いている(それも今の名刺の残りの枚数がなくなったら変えようと思っているのであるが)。
 
アナリストが花形職業だった頃は、良くも悪くも色々な人が集まった。MBAの肩書きだけの人や、殆ど通訳としか思えないような人も居たが、(私の勝手な基準で)アナリストに適した人も沢山居たように思われる。アナリストが構造不況職種となって、他の適性も併せ持っている人たちは去り、むしろ、アナリスト業務しか出来ない人たちが取り残されたというのは多少言葉が過ぎる面もあるかもしれないが・・・・(他の業務を行う能力も十分あるけれどアナリストが一番自分自身を高く売れる職業であることを認識して上手く立ち回っているクレバーな方もいるので必ずしも全部の人には当てはまりません)。
こうした点を考えてゆくと、採用募集時に「アナリスト募集」と書いてはいけないのではないかと思うことがある。研究職と勘違いした方が多数お見えになる。では、なんて書けば良いのだろうか? もし、面白いアイディアがあったら教えて欲しい。是非!
By 人事担当者

追伸:ここまで求めるのは未経験者に対しては”酷”だと言われてしまうかもしれない。しかし、本当に株式投資に興味があるのなら投資家向け講演会やIRセミナーに一度も行ったことがないっていうのは有り得ないと思いませんか?
ご意見、ご批判、また人材募集の良いアイディアなど頂戴できれば幸甚です。
(この文章は、昨年12月にフェースブックに掲載したものを若干加筆訂正して掲載しました。)

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