少し前の話になるが、東京ビックサイトで開催された自動認識セミナーに出席した。東大特任教授である小川紘一氏の講演会「国際標準化と事業戦略?知財マネージメントが主役になる巨大市場の登場?」を聴講するためである。「繁華街でのお友達」の技術者の方に久しぶりにお会いした時に、「ものづくりに興味があるならこの講演を聞いておきなさい、私も行くから」と畏れ多くも薦められたからである。
技術と知財に優っている日本企業が、DRAMメモリー、液晶パネル、DVDプレイヤー、太陽電池セル、などで大量普及のステージになると市場での競争力が落ちる過程とAppleが強い理由の内容であった。AppleとSamsungの特許訴訟が話題となっていた時期であり、刺激的な内容であった。
私の理解ではキーメッセージは2点。(1)国際標準化とはビジネス・エコシステム型(≒比較優位の国際分業)をつくることであり、国際標準化の前に自社と市場の境界設計が必須である。(2)Appleは特許と著作権、意匠権、商標権などを組み合わせているところに強さがある。講演内容は『国際標準化と事業戦略』白桃書房をベースとしているようだ。
この講演も踏まえ、技術や知財に重点を置いたレポートを作成することを思い立ったが止めた。レポート作成では、技術とその方向性も考慮するのだが、そこに焦点をあてると、成長性には精度と恣意性が問題になりやすいと思ったからだ。
技術見通しは条件が揃わないと精度は悪い。また、技術力で中長期に有望だといった場合には書き手の恣意性が入る場合が多い(それがアナリスト業務のひとつかも知れないが)。
これまでの経験上、私の理解内で書こうとすると、技術力は競合他社間ではほぼ同様で特長にはなりにくい。有望製品がある成長企業ですすめても有望業界の話しに摩り替わるのがオチとなる。ニッチ市場で強い企業の場合は、費用対効果で参入インセンティブが働かない場合が多く、ニッチのままで終わることが多い。
さらに、もし技術力があるのならば数字で表れるものだろう。テレビや夕刊紙で首相などの話し方の解説などをしていたりもするパフォーマンス学の佐藤綾子氏の言葉を借りれば、「表現されない実力は無いも同じである」との名言?がピタリとくる感じである。財務諸表の視点からは、効率性や利益貢献での変化が確認できなければ、それらを意識する必要性が少ないと思う。やはり、製販の仕組みを踏まえてビジネスモデルの中でどこにエッジが利いているのか、そして業績予想の精度を上げてバリュエーションの基礎となるEPSの上昇する企業をレポートとして量産したほうが有用性あると思えてきたからだ。
投資家にとって必要なレポートとは、身も蓋もないが「儲かるか儲からないか」につきる。投資家は絶対リターンを求めるために活動している。市場平均並みやリターンがマイナスでよいと考える投資家はいない(だろう)。そう考えると、最近は特にセクター内での比較の重要性が減ってきていると思う。セクター内の類似企業で割安・割高といわれても市場平均に大きく負けているセクターでは触手が動きにくいだろう。特に、ロングのみを考える場合には情報価値は少ない。自己満足や物知り博士のためにレポートを作成しているのではなく、顧客にリターンを得てもらうためのお手伝いをしているのである。
10月17日に「個人投資家応援評議会」の設置についてマネックス証券からリリースがあった。個人投資家の視点で証券市場の活性化策および規制緩和要望などを取りまとめ、積極的に意見を発信していくことを目的に設立。TIWもマネックス証券向けをはじめ、個人投資家向けのレポート作成している。儲かるは活性化のための十分条件。来週から上半期の決算が開始される。一段落する前から、再度パフォーマンス重視の銘柄選択を強化しよう。
Written by 有楽害