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TIW Cafe

SEMI-NOTE  -Cranberry Jam-

2012年09月07日

うちの近所に古美術店があり、カフェが併設されています。カフェとしてはうちから最寄りなのですが、何となく敷居が高くていつも前を通り過ぎるだけでした。先日東京で久しぶりの雨が降った日、いつものスタバまで歩くのが億劫で、ついに意を決して入ってみました。

店内の所々にさり気なく絵画や骨董品が飾られ、白い壁にはモノクロ映画が映し出されています。奥にはグランドピアノがあり、自動演奏で久石譲が流れていました。高級感の漂う雰囲気に怯みながら恐る恐るメニューを開くと、コーヒー1杯500円。この雰囲気でこの値段!グッドバリューです。800円を覚悟していたのでホッとすると同時に、もっと早く来てみるべきだったと少し後悔しました。

この雨のせいかお客さんは少なく、店内は空いています。コーヒーを啜りながらくつろいでいると、ドレスを着たスラリとした女性がおもむろに入ってきました。そしてスルスルと奥までいくとピアノの前に座り、やおらドビュッシーを弾き始めたのです。あぁなんて素敵な演奏!まさかのピアノ生演奏サービス。コーヒー1杯500円。ノーチャージ。エクセレントバリューです。

女性は長い指で鍵盤を自在にあやつりながら、器用に楽譜をめくります。チラリと見える譜面上ではおたまじゃくしのような音符たちがたくさん踊っていて、一見無秩序に並んでいるようにも見えるのに、一つ一つの音符が集まって紡ぎだされるメロディーは甘美で繊細で、うっとりとしてしまいます。
目を閉じて音符の合唱に耳を傾け、夜空に浮かぶ月の光を想像していると、ハッとしてバッグからノートを取り出しました。自分でもよく分からないけど急に何かを書きたくなったのです。これがいわゆる創作意欲というものでしょうか。元々創作活動は不得手な私ですが、何かを書くとしたらこれ以上の環境は無いように思えました。

ゆったりと優雅な日曜午後のひとときを過ごし、お店を出るといつの間にか雨はあがって、セミが鳴いていました。先週までフォルテだった鳴き声も、気がつくとデクレッシェンドでピアノになり、木陰のそよ風とあいまって夏の終わりを感じます。もうセミ合唱団も終演かぁ。そう思うと少しさみしくなりました。

Written by  Cranberry Jam

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