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伊香保温泉の美しい紅葉 -Rilakkuma-

2011年12月02日

真っ赤に色付いた遠くの尾根を見ながら、小道に舞い落ちた木の葉を、踏みしめて歩く。
北関東の山あいの温泉地の、燃えるような紅葉。
カエデ、もみじ、クヌギ。競うように枝を伸ばして、山肌を覆いつくしている。

見て、雨みたい、雨みたい。若い女の子の声がする。
空を見上げると、青い空から紅葉の雨が降る。風に飛ばされ、黄色や赤やオレンジが舞う。色付いた葉が私を取り巻く。木の葉が、くるくると回る。
美しさに笑みが出る。風が優しく止む。木の葉の雨は、もう無い。

過ぎた季節を思う。
悲しみの春に、桜は力強く芽を吹いた。日本人の誰もが、痛みを勇気に変えようとした今年の夏。エネルギーが取り巻いた猛暑は過ぎ、やがて紅葉の秋が来た。自然のリズムが時の経過を教える。その間に権力が変わり、その度に書かれる、叶わないシナリオ。
美しく色づく葉に隠れて、苦しみのあの地にも、確実に秋が来ている。
舞い散る木の葉のように、沢山の個人が、心に決めた意思だけを道しるべに、次々と支援に向かった。相反するのは、崇高な民と、代表者の意思の欠落。やがて真紅の季節は過ぎ、銀世界の足音が聞こえるだろう。
私はこの夏に、雪虫を見た。今年はきっと、厳冬になるだろう。この小さな温泉街も深い雪に包まれる。あの土地の全ての人が、この冬の寒さを耐えることができるだろうか?
犠牲の大きさが、最も未知である時が来る。

朱塗りの太鼓橋を渡るとき、目の前の風景は色を増す。立ち止まる人は息を飲む。ここは伊香保温泉の絶景。川面を覆う紅葉の枝葉、背景にせまる錦色の山。私は立ち尽くす。美しさに、心が吸い込まれてゆく−
ふと、渡り鳥の鳴き声に、空を仰ぐ。南下する椋鳥が群れを成す。
私は我に返る。冬は確実に、もうそこまで来ているのだ。北の地が心を覆い、胸を突く。
最後の秋の日差しの下で、とても美しく、感慨深い伊香保温泉の紅葉。
私はうつむいて、目を閉じる。

Written by Rilakkuma


 

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