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地域からみたこの国の今 -Saba Dylan-

2011年07月29日

近隣の畑が建設会社の囲い塀で覆われたことに最近気づいた。総戸数50戸の分譲マンションに生まれ変わる。大田区では数少ない農家の所有地であったとみられるこの畑は酷暑には「お遊び禁止」の看板が掲げられた用水池が清涼感を与えてくれた。また、作物の成長を見て季節の変化を味わうことができた。道路を挟んだ反対側にこの半分程度の畑地がまだ残る。いずれ同じ運命を辿るのだろう。世田谷区を水源に池上本門寺前を抜け羽田空港脇に注ぐ呑川沿いのこの一角に住まいを構え10年余りになる。大田区は日本を代表する町工場を中心とした産業の町と昔からよく聞いた。住宅街から移ってくるとまさに町工場地帯そのものであった。機械で金属を削る音やプレスの圧縮音が響き、油臭い空気が充満、そして、フォークリフトが忙しく動き回る活気に満ちた光景が印象的であった。

この10年で昭和の高度成長を牽引し我が国の「モノ」づくりを支えてきたと言われるこうした町工場は次々に姿を消した。同様に終身雇用のシンボルでもあった大中企業社宅もあっと言う間に姿を消した。跡地は決まったようにマンションに変わる。あれから何棟が立ち上がっただろう。こうした動きは最近加速しているようにも思える。ベランダに出ると建設現場の大型クレーンがいくつか顔を出す。長引く不況、収まらぬ円高、国内市場の縮小と海外成長市場への生産のシフト、そして後継者不足への解決策としてかつての繁栄を支えた生産現場や社会システムが消滅し、マンションという居住空間に変わっていく。とうとう農地までと思うとなにやら寂しい。

大田区の町工場はピークの半分以下まで減少した。一方で区内の人口は増え続けていると聞く。この地域だけをとらまえれば食料や耐久財への需要が高まり労働供給力は増す。一方で生産財の供給や雇用がどんどん減っていく姿が浮き彫りとなる。今は他地域との需給の調整によりバランスがとれる。しかし、少子高齢化と産業空洞化の加速はこの国全体の問題である。他地域で多かれ少なかれ同様な状況が推察される中で他地域との需給調整によりこの地域が回り続けるとしたら摩訶不思議である。大きかろうが小さかろうが不利競争条件のもとで製造業はどこもこの国に留まり続けることに疑問を抱く。この国は一体どこを目指すのか。その答えは風に舞っていると考えると近隣での近代マンションの建設ラッシュはゴーストタウン化する前の最期の春を謳歌しているように思えてならない。

Written by Saba Dylan.

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