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心の目 -Cranberry Jam-

2011年06月10日

私の視力は1.5です。パソコンを前にデスクワークの日々ですが、視力は落ちません。少々遠くの文字でも、だいたい何でも見えます。私の唯一の取り柄です。でも世の中には、目の見えない人がいます。
先日テレビに辻井伸行さんが出ていました。全盲のピアニストです。天は視力の代わりに特別な力を授けました。絶対音感です。アナゴの天ぷらを揚げる音はソ。350mlの缶ビールを開ける音はシ♭、500mlならド♯。一度聞いた音なら、だいたいのものはピアノで再現できます。

母親のいつ子さんは、小さな頃から色々な所に連れて行きました。海、キャンプ、スキー場、庭園、花火大会、美術館。目に映るあらゆる物を、言葉で我が子に伝えました。
辻井さんあこがれのショパンが暮らした家。念願かなってスペインのマジョルカ島まで訪ねていきました。ショパンの息吹を感じとり、あこがれの人と心を通わします。眼下に広がるのはコバルトブルーの地中海。全身に潮風を浴びながら、ポツリと言いました。
「美しい‥」
たとえ網膜には映らなくても、心の眼には映っているようです。やおら手が動き始めました。10本の指が蝶のように舞っています。頭の中で湧き水のようにメロディーが溢れているのです。辻井さんの目に見えたもの。それはひとつの作品になって結実します。『風の家』です。海の風に体を包まれて、空を自由に飛んでいるような、そんな気持ちになれる曲でした。
辻井さんは言います。「不便なこともあります。転んでケガして、どこから血が出ているのか分からなかったり。でも僕は人よりも幸せのハードルが低いんです。手を伸ばしたら偶然欲しい物に当たる。それだけでヤッターと思えます。日常の些細なことに喜びや幸せを感じながら生きています。僕の人生は、視界良好です。」

私の視力は1.5です。遠くの小さな文字が読めます。だいたいのものは見えていると思っていました。でも見えてないもの、見落としている喜びや幸せが、たくさんあるのかもしれない‥。そんな気がしました。

Written by Cranberry Jam

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