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御殿場線の旅 -ST-

2009年12月18日

東京駅から一時間と少し東海道本線に乗り西へ向かう。品川、横浜、そして加山雄三、サザンの湘南茅ヶ崎を経て馬入川を越える。平塚を過ぎた辺りから家並みも疎らとなる。湘南平を右前方に望み花水川を渡り暫くして小田原市の東端、国府津へ到着する。ここで線路は二手に分かれる。別の一方の路線は途中国道246号線と並行して走り、国府津と静岡県東部地区の中核都市沼津を結び、再び終点沼津で東海道本線と繋がる御殿場線だ。

沼津で育った。最近、十数年前に一人となった親が年老いてきたため郷里に向かう機会が増えた。交通ルートは色々あり新幹線に乗り三島経由で向かうのが当然最も早い。しかし、なんとも味気なく、読みかけの本を持ち、東海道の鈍行列車に飛び乗ることが多い。国府津が近づく。このまま進めば沼津まではあと一時間余りだ。途中、相模湾に浮かぶ伊豆大島の景観も捨て難い。だが一時間程度余計にかかり遠回りとはいえ、余裕があり天気が良いと何故か誘い込まれるように御殿場線に乗り換えてしまう。

この路線からの車窓風景はとにかく抜群だ。発車直後、雄大な相模湾を左手に見ながら電車は単線を北西の松田に向かう。その後勾配がきつくなる。古い駅舎が目を引く山北駅付近は無数の桜が毎年春には咲き乱れる。山北からワンマンカーは山間をゆっくりと進む。夏は眼下の渓流が涼しげだ。駿河小山、足柄と進むに連れ富士山が大きくなる。冬は運が良ければ銀世界となった御殿場の町並みを味わうことができる。御殿場を過ぎると広大な富士の裾野を右手に見ながら真直ぐ沼津へ下る。先週は山間の紅葉を満喫した。

この路線はかつて東海道本線の一部でありメイン路線であった。交通の難所であったため約90年前に静岡県側とストレートに短時間で繋がる熱海−函南間の丹那トンネル工事が着工された。当時としては全長約8キロ弱の複線トンネルは国内最長でまさに世紀のプロジェクトとなった。箱根の地質や豊富な湧水により難工事となり工期は当初計画を9年上回る16年に亘った。途中関東大震災などの天災など何回かの事故で67名に及ぶ犠牲者が出たと言う。

御殿場線に揺られると都会での疲れを四季折々の豊かな自然やゆったり流れる時間が癒してくれる。この貴重な自然環境は鉄道の近代化と土木工事の発展により交通量が増えなかったから、そして尊い犠牲があったから残されているとも言えよう。と思うと地球環境問題への取り組みの重要性が日々クローズアップされる中、環境を大切にしたいという思いがとても強くなる次第である。

*国府津駅は東海道本線の駅弁発祥の地とのことです。今では特急も停まらぬ小さな駅で、構内での駅弁販売はありませんが、駅前の売店では「鯛めし」といったお馴染みの駅弁が買えるとのことです。今度トライして見ようと思いますが、東京から僅かな距離で味わえるローカル線の旅、機会がありましたら是非お試し下さい。

Written by ST

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