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漆黒が見せた風景 -うみねこかもね-

2009年11月27日

友人宅で昼からさんざんおしゃべりした帰り道、少し寄り道することにした。空気は冷たいが、それまで座りっぱなしで話していたから体を動かしたかったのと、連休中日の午後5時半、まだ家に帰るのはもったいない気がした。

駅からの大通り、自宅へ続く小道を素通りしまっすぐ進む。はや日は落ち、電球を巻きつけられた木々が青く輝いている。そんな華やかなビルを通り過ぎると、車も人もぐっと少なくなった。
歩道がふいにせり上がり、橋のたもとに来たことを知る。左手に案内板らしきものがあるけれども、暗くて読めない。
風がさあっと体を通り抜けたのを感じると同時に、視界を黒色が覆った。眼前に巨大な闇をまとった隅田川の川面が現れた。

その大きさに一瞬、みぞおちがきゅっと締め付けられるような、それでいてすうっと胸のすくような、不思議な感覚を覚えた。
思わず欄干まで寄り、川面を見つめる。手前には無数の黒いさざ波。さざ波たちは寄っては離れしながら大きくかたまり、そうやって蛇行しながら奥の闇からやってくる。

少しの恐怖と興奮からか、寒さを忘れ歩を進める。
昼間の表情とは違い、暗いというだけで逆に深さ大きさが何倍にも感じられる気がする。
屋形船が二艘、足下を過ぎて行った。

橋の真ん中に差し掛かり、ふと漆黒とは反対側を見遣ると、その先に林立する高層ビルのきらきらとまたたく姿があった。歩いたことがあるはずであろう場所も、ここから見るとまるで外国に来たような、見知らぬ風景を見ている気持ちがする。

左手の漆黒、右手の夜景。もっと長く味わっていたいけれども、橋はもうすぐおしまいだ。渡り終える手前、来た道を振り返ってみる。一羽のカモメが視界のてっぺんを横切り、闇に溶けていった。


Written by うみねこかもね

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