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思い出しの湯 -BUG-

2009年04月03日

四半期決算発表が一巡し、ひと息つくことの出来た先日の話だが、仕事が少し早く終わった為「運動をかねて」と神保町のオフィスを出て文京区の自宅までウォーキングをすることにした。自宅までは歩いて1時間弱といい運動。地下鉄通勤のため普段見ることの出来ない風景も、夜風が冷たかったせいか、なんとなく新鮮に目に入った。神保町交差点から白山通り沿いを歩き、JR総武線の高架下をくぐる。東京ドームの横を通り越し自宅まであと10分ぐらいの所で、ふと左を見ると昔ながらの銭湯を見つけた。薄汚れた煙突屋根の下を覗けば、木製の靴箱がずらりと並んでおり、なんとも趣があるではないか。こんなところがあったなんて・・・

汗を掻いていた私を誘うようにドアは開き、私の手は610円を番台のおじさんに渡していた。服を脱ぎ、浴場へ行くと白髪の男性が2人。常連の客らしく湯気に包まれ楽しそうに話をしている。体を洗い終え、泡の出る湯船に浸かった私の後から、80歳前後と見られる別の男性が近づいてきた。湯船に足を入れた瞬間「あちちっ」と発し、こちらをじっとみている。「水を入れてもいいですか?」「えっ、どうぞ、どうぞ」。

短い会話ではあったが、そのあと私は幼い頃、父、弟達と毎日のように銭湯に行ったことを思い出した。その頃の銭湯は時間帯によってほぼ常連客は決まっており皆が皆、顔見知りだった。背中の大きな父の後を、身を震わせた裸の3兄弟がついて歩いていると、まさに金魚のフンのようなものだが、その手には様々な色の塩ビ人形。浴場に入ると金魚のフンには同学年の友達が多数おり、みんなでよく人形を持って集まった。アニメのプロレスラーやゴジラなどの怪獣もの、みんな違うシリーズではあったが、顔が真っ赤になるまで戦わせた。また、湯船の中では近所に住む頑固親父に3兄弟揃ってよく沈められた。3兄弟は女性にもてたが、番台のおばちゃんが中心だった。でも、笑い声と笑顔は絶えることが無かったと思う。本当に楽しかった。

「ここ、今日で終りみたいですよ。」思い出を巡らせていると、さっきの男性が声をかけてきた。どうやら私は、この銭湯の営業最終日に初めて足を運んだらしい。良い場所を見つけたと思った矢先のこと。地域の人々の集会所、子供たちの遊び場と成り得た銭湯がこうも脆く無くなってゆくのかと思うと、残念で仕方なかった。

ただ、引き寄せられる様に入った一晩限りの銭湯。大切なものを思い出すことが出来た。心から感謝したい。

Written by BUG

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