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28歳の見た自分の未来 -鈴木 崇生-

2009年01月09日

小学生の頃、私はお小遣いが100円だった。小学校が終わると、数日に一度は近所の駄菓子屋に集まって、そこから適当に日が暮れるまで遊んでいた。毎日お菓子などものを買える人はいないものの、当時お金を使えるということは物凄く格好良く見えた。何かしら買うことの出来る人はヒーローで、その日の中心となった。両親は厳格な人で金銭には厳しく躾けられたことから特別にお小遣いをもらうことも出来ず、お年玉も自由に使えず、買い食いも厳禁だったし私がヒーローとなれる日は全くなかった。ようやくためた300円を使うのが勿体無くて、机の引き出しから貯金箱へ入れた日のことを今でも鮮明に覚えている。中学校に入りお小遣いはやがて3,000円になったが、全然足りなかった。殆どが100円のカップラーメンで消えていった。私は、早く働いて自由に使えるお金が欲しかった。

私は何歳まで生きるのかわからないが、死亡率に基づいて生きるとしよう。65歳まで働いたとして、普通に生きて普通に死ぬとする。厚生年金は払い続けているので満額もらえるはずだ。今後どうなるかはわからないが私の場合で年間約180万円のはずである。さて、何の債務もない状況で1年間にいくら欲しいかと考えて350万円有れば慎ましやかな生活が送れると考えた。予定利率1.5%で計算すると、65歳で仕事を収める時に、私は3300万円の貯金が最低限必要である。

この計算は私以外の同世代にも当てはまるはずだ。人口動態統計を見てみると、ここ50年の間に1つの山がある。第二次ベビーブームといわれた昭和46−昭和49年がそれで、この間の年は出生数が200万人を超えた。出生数が200万人を超えたのは団塊の世代以来のことであるから、図解せずともイメージを掴んでいただけるだろう。ちなみに平成20年の出生数は推計値で114万人と、少子化を如実に表している。単純に、今の35歳と0歳では人口は半分程度しかいない。今のうちに年金の世代間格差を解消していただきたいのだが、その話は別の機会へ譲る。

昭和46−昭和49年は年齢にすると38歳−35歳である。大体この年齢から、私も含む昭和55か56年生まれを就職氷河期と呼ぶ。家計調査で30−39歳の世帯主収入を追うと平成9年をピークに減少傾向へ転じている。就職氷河期の影響を窺い知れる。ただし、収入合計自体は緩やかな減少傾向にとどまっており、これはなにかと調べると、配偶者収入が増加基調にある影響が強いということがわかる。つまり、配偶者がいて共働きでようやく生計を維持できているという格好である。専業主婦という言葉は幻に近いものを感じる。

では、なぜこの世代の収入が低いのだろうか。年齢別の人数を公表している資料がないため定かではないが、問題となっている派遣労働者を1つの理由として挙げることができるだろう。厚生労働省労働者派遣事業報告を見ると労働者派遣法が平成11年に適用対象業務を原則として自由化した時から、派遣労働者数と登録者数は一気に増加した。平成11年は、就職氷河期の中でも超就職氷河期の開始年である。派遣労働者数は平成11年には107万人であったものが、私が大学を卒業して就職した平成16年には227万人に増加している。平成18年では321万人である。同じく同報告書からは派遣労働者の賃金が増加していないことが読み取れる。付け加えると、平成17年に厚生労働省が行った調査を見ると、30−34歳の年収は全労働者が446万円(賃金基本統計調査)であるのに対し、派遣労働者は292万円(労働力需給制度についてのアンケート調査)とその差は大きい。

ライフサイクルで成人期初期にあたる年代は、将来の会社の屋台骨を支える人材が集まっている層である。また、住宅、養育など人生で最もお金を使う世代でもある。先に述べた人口動態統計からも、ターゲットとすべきこの世代が定職定まらずお金を持っていないということは致命的であろう。総務省の消費実態調査を見ると、平成11年に比べて平成16年は45歳以上が貯蓄を増やせているのに対し、44歳以下の世帯では軒並み貯蓄高を減少させている。家計調査で見る限り消費性向も減少傾向にある。少しでも貯蓄を、という考えを窺い知れる。可処分所得が下がっている中で消費性向はあがっている局面もあるが、これは逓増している通信と自動車関連の寄与度が高いと推定される。携帯電話の普及やデータARPUの上昇が寄与していると思われる。丁度「iモード」が出た時期とも重なる。自動車関連の支出はガソリン高だろう。平成11年1月は98円であった(総務省の小売物価統計調査)。若者の購買意欲が低いのはインターネットが一因であるなどという調査結果も見たが、一当事者でもある私からすればお金がないのになぜ高い買い物をしなければならないのだという疑問がある。給与水準の先行きが見通せない現状では尚更ではなかろうか。

では、なぜ派遣労働者なのだろうか。なぜ正社員ではないのだろうか。派遣労働の仕組み自体は悪いとは思わない。なぜか。答えは1つ、正社員を簡単に解雇できないからだけではなかろうか?労働派遣法が改正されてきた由来について詳細を私は語れないが、正社員雇用へ企業が慎重になった背景が理由の1つと私は考えている。人員整理を行う際、日本では正社員を解雇するには法律があり、組合があり、苦労することが多い。派遣ならば、契約終了と同時に切ることが出来る。厚生手当ての負担も小さい。これが何を生み出してきたのか。未だに忘れられないが、名誉職として居座り仕事をしない、出来ない層が上に控えているからこそ、若年層の機会が奪われ、挙句に派遣という機会も奪われ、この現状を生み出しているのではないだろうか。年明けに某民営化された企業の同期と話をしたが、未だにPCの電源の落とし方すらわからない人がいるという。

お金を使う世代がお金を持っていないということは内需喚起など期待できようもなく、少子高齢化の影響もあり、日本の先行きは暗いといわざるを得ない。幸せなことに私は職を頂戴しており、懸命に働くのみである状況にいるが、その機会すら与えられない人々が溢れている。働くべき人が働かず、貯蓄と消費を行えない日本経済はどこへ行くというのか。

普通に死のうとすれば私の年代は上述のような貯蓄を溜めなければならないが、果たして可能なのだろうか。20年後、30年後、とても大きな問題になる気がする。予定利率を1.5%としているが、これより低くなる可能性も多々あるだろう。
明るい未来などないことだけは覚悟しておこうと思う。


Written by 鈴木 崇生

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