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TIW Cafe

熱き思いを胸に -BUG-

2008年11月07日

いつも新聞や雑誌を読んでいて、目頭が熱くなる記事がある。
私がまだ生まれていない1962年7月11日、ターボプロップ試作機1号機「YS-11 PROP-JET」が日本の空を56分間に渡り飛行した。
それから46年後の2008年4月1日。失敗を重ねた人々の夢はまだ終えていなかった。
三菱航空機株式会社の立ち上げによる国産旅客機「MRJ」の事業化である。

資本金30億円で開始されたそのナショナルプロジェクトは、三菱重工業(7011)、三菱商事(8058)、トヨタ自動車(7203)、住友商事(8053)、三井物産(8031)など経済界の熱い応援を受け、5月末時点で資本金(資本準備金含む)700億円と日本の夢を背負った。受注は3月に全日本空輸(9202)から、やっとの思いで獲得した25機。座席数は70-96で、エンジンには米プラット・アンド・ホイットニー(P&W)が開発中の「ギアド・ターボ・ファン(GTF)」技術を採用した「PW1000G」を予定している。変速ギアをファンとタービンの間に挿入し、燃費を2割近く改善できる優れものだ。また、「YS-11」の頃にはティア1の大半が日系メーカーだったが、MRJは「Boeing787」生産に学び実績の多い海外メーカーとも肩を組んだ。降着装置は住友精密工業(6355)、配電装置はナブテスコ(6268)、動翼設計はジャムコ(7408)ながら、電子機器飛行制御システムには米ロックウェル・コリンズ、電源・空調システムに米ハミルトン、パイロン(エンジン懸架装置)に米スピリット・エアロシステムズと、グローバルリーン生産体制を構築する。

日本航空機開発協会(JADC)が予測する今後20年間(2007-2027年)のジェット機新規需要(60-99席クラス)は4,475台で、約1,500億ドル(1ドル100円換算で15兆円)の需要が見込まれる。地域別台数内訳は北米1,431台、欧州885台、アジア/太平洋1,661台、その他地域498台となり、長期的に旅客数の伸びが期待されるアジア/太平洋需要の割合が大きい。しかし、中国やロシアエアラインには国を挙げて支援する「ARJ21(中国航空工業第一集団)」や「SSJ100(スホイ)」などが納入される可能性が高いため、MRJのターゲットは20年間で10兆円規模(一機あたりの平均販売価格を約0.34億ドル[約34億円]と前提)となろう。ただ、歩むその道のりには、航空機部門の受注残高261億ドル(08年7月末時点)カナダ・ボンバルディアと、同207億ドル(08年6月末時点)ブラジル・エンブラエルの世界最大手2社が待ち構える。7月イギリスで開催されたファンボロー国際航空ショーでは飛行実績の無く受注が取れないMRJを尻目に、ボンバルディアがドイツの航空大手から新機種「C-シリーズ(座席数110-130:MRJと同様のGTF採用エンジンを搭載)」を60機受注するなど競合の背中は遥かに遠い。

MRJは2011年に初飛行、2013年に就航を迎える。ただ、この始まったばかりのプロジェクトには課題が山積み。「PW1000G」エンジン搭載や炭素繊維複合材の使用などといった燃費効率の向上のみではなく、販売や保守サービス網の構築を怠れば、「YS-11」や「MU300」の二の舞になるからだ。開発費2,000億円弱を賭け望むこのナショナルプロジェクトは製品優位性の維持・向上、そしてマネジメントの販売・メンテナンス戦略の両輪がかみ合わなければ、ソフトランディングさえ難しい。
11月1日に米国販売会社を設立するなど、始めの一歩は踏み出された。
ヒコーキ職人の途切れない熱き思いと、受注獲得のため流した汗を燃料に大空を舞う日を楽しみにしている。

Written by BUG

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