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芸術の秋 -ダメリア-

2008年10月17日

先日、ソフィア国立歌劇場の日本公演を鑑賞した。演目は19世紀イタリアオペラの巨匠ヴェルディの傑作「仮面舞踏会」である。

17世紀ボストン。総督リッカルドは、秘書で親友のレナートの妻アメリアを愛している。アメリアもリッカルドを慕っているが、不倫愛に戸惑い、占い師ウルリカの弁に従い、真夜中の刑場で草を摘んでいると、リッカルドがやって来て熱く愛を告白する。ところが、そこにリッカルドに謀反を企てる者の動きを知らせにレナートがやって来る。リッカルドはヴェールで顔を覆ったアメリアをレナートに託し、その場を逃れるが、謀反人にヴェールを剥ぎ取られたその女が自分の妻であると知ったレナートは謀反に加わることを決意する。そして、仮面舞踏会の最中、彼はリッカルドを殺害。レナート夫妻を気遣うリッカルドは「アメリアは潔白、レナートも許す。」と言い残し、息絶えるのであった。

アメリアは俗な言い方をすれば、夫がいる身でありながら、他の男性も好きになってしまった人妻。キャストの演技次第で人間の崇高さを描いたヴェルディの傑作がただのメロドラマに陥るリスクをはらむ難しい役どころであるが、今回の公演ではソプラノ歌手として世界で活躍する佐藤しのぶさんが気品に溢れた妻を見事に演じきった。年齢的にも、円熟を増したキャリアからみても、ピッタリの役であったように思う。

日本人がヨーロッパの舞台で周りの人に圧倒されずに、その存在感を発揮するのは大変なことだ。白人コンプレックスかもしれないが、ブロンドの髪を風になびかせ、ゆったりと歩くパリジェンヌの姿は、朝食のクロワッサンをかじっていて
も、そのまま雑誌の1ページに収まるくらい、誰もかれも、仕草が様になって見える。

身体的な特長で言えば、佐藤しのぶさんは背丈があり、日本人オペラ歌手として恵まれた体型を備えている。しかし、さらに自分を大きくゆったりと見せる演技が働いているのは確かであろう。それを自然と醸し出すことの出来るこれまでの地道な努力、そして、精神性の高さに頭が下がる思いだ。


Written by ダメリア

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