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苛政は虎よりも猛し -ニアプライム-

2008年09月05日

株式投資をしている富裕層(今はそうでない人も多いかもしれないが)は、サブプライム問題に端を発する世界的な株式相場の急落で痛手を蒙っているだろう。こうした中、追い打ちをかけるかのように、政府税制調査会(香西泰会長)などにおいて、2009年度の税制改正での相続税の課税強化が検討されている。というよりほぼ決まっている。官僚の御用機関に成り下がった経済財政諮問会議の民間議員もこうした動きを後押ししている。格差の固定化の防止が大義名分だ。現在、5,000万円の基礎控除が引下げられ(恐らく半分程度に)、最高税率も引き上げられるだろう。課税対象者はバブル期には地価高騰で死亡者の7%程度だったが、現在は4%程度に下がっている。課税範囲を拡大し、かつての水準に戻すのが狙いだ。

しかし、世界の大勢は相続税廃止であり、相続税の課税強化は世界の流れに逆行している。そもそも日本の相続税は、貧富の格差を抑制するためではなく、日露戦争の戦費を調達するために生まれた臨時の戦争税である。現在、主要国の約半分には相続税、遺産税はない。その主な国は、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランド、スイス、スペインの多くの州、イタリア、ポルトガル、スウェーデン、シンガポール、マレーシア、インド、中国、香港、タイ、ベトナム、インドネシアなど。福祉国家のスウェーデンでさえ相続税がないのには驚く。アメリカは2002年から段階的に引下げ、2009年の時点で7億円まで非課税。2010年にはゼロになる(翌年から復活の可能性)。フランスはサルコジ大統領が選挙公約に相続税廃止を掲げていたし、イギリスは住宅価格高騰を背景に中間層の負担が重くなっているため野党が相続税廃止を提案している。こうした相続税廃止の世界的な潮流の背景には、私有財産を国家が犯すべきではないという自由主義社会では当り前の考えが根底にあるとともに、相続税逃れのための富裕層の海外移住を抑制する、土地の細分化を防ぎ町並みを維持する、文化財の散逸を防ぐなどの狙いがある。

財政難のおりから官僚は取れるものなら犬猫からでも税金を取りたいのだろうが、相続税の税収は約1.5兆円で消費税の1%しかなく、相続税の課税を強化しても財政再建にはほとんど役に立たない。金持ちを貧乏にすることはできるが、貧乏人を金持ちにすることはできない。

次期総理が確実な麻生幹事長は、相続税の廃止論者で知られる。今、相続税廃止なんて言おうものならマスコミから袋叩きにされるだろう。ところが、相続税の増税に賛成か反対かを問うヤフーの意識調査(8/20?8/30実施)では、増税に賛成が36%(6,319票)、反対が65%(11,510票)と意外な結果になっている。サルコジ大統領のように相続税廃止を総選挙の公約に掲げれば、地すべり的な勝利を得られるだろう。都市の富裕層だけでなく、地方の農家からの支持も得られる筈だ。農家は所得が低くても土地を持っているので、相続税の対象になりやすいのである。

Written by ニアプライム 

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