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インフレの波は自動車保険料にも -ニアプライム-

2008年06月13日

6月12日の日経新聞朝刊1面は、大手損保が自動車保険料を一斉に値上げすると報じた。既に各社とも決算説明会の席上などで明らかにしており、内容自体に新味はない。値上げといっても東京海上日動と三井住友海上が1.5%程度(7月予定)、損保ジャパンが2.5%(4月実施済み)程度と小幅。この程度の値上げであれば、無事故割引が進行する人は、ほとんど気がつかないだろう。ただし、値上げがこれで済むかは予断を許さない。

各社が自動車保険料を引上げるのは、損害率が悪化しているためだ。大手5社の自動車保険の損害率は04/3期まで概ね60%台前半だったが、05/3期から顕著に上昇基調となり、5社平均では08/3期までに6ポイント程度悪化し、最も高い三井住友海上では71.4%に達している。各社の事業費率は31%台?35%弱のため、自動車保険はほとんど利益がないか赤字の状態だ。しかも損害率悪化は09/3期も続きそうな気配である。

損害率の急激な悪化は何によるものか?損害率の悪化が始まった時期と保険金の支払漏れが発覚した時期とほぼ同じであり、支払漏れに対する直接の追加支払のほか、消費者の請求マインドの高まりが指摘されている。このほかの要因として、(1)分母となる正味収入保険料の低迷、(2)支払漏れに対応した損害査定要員の拡充による損害調査費の増加、(3)高齢化の進展(高齢者ほど事故を起こしやすい)などがあげられよう。しかし、主に悪化しているのは対人保険の部分であり、明確な悪化理由は判然としない。

(1)は単価の低下に起因している。ノンフリート(所有自動車9台以下)の自動車保険料の単価は現状、平均すると6万円程度とみられ、無事故割引の進行、車両の小型化、新車販売の低迷(新車の保険料は高い)などにより年間1,000円前後の低下が続いている。フリート(10台以上、要するに法人契約)の単価も競争激化により低下トレンドが続いている。単価が下落し、契約台数がわずかながらでも増加するとどうしても損害率は高くなる。(2)のほかに、支払漏れに対応したシステム投資などの業務改善費用が大手では100億円単位で発生しており、事業費率の悪化要因になっている。

今回の保険料値上げが小幅にとどまるのは、競争上の理由に他ならず、値上げによる損害率の改善効果は1ポイント余りにしかならない。値上げと同時に行う商品の簡素化による補償内容の見直しが損害率改善につながらないと、さらなる保険料の値上げが必要になるだろう。消費者の請求マインドの高まり、保険会社の契約点検活動や契約者への保険金請求案内などにより、これまで低位安定していた傷害保険の損害率も急激に上昇している。将来、傷害保険の保険料値上げもありえるだろう。自賠責保険料は運用益の蓄積を理由に25%程度引下げられたが、ガソリン価格の高騰、自動車保険料の値上げによる自動車の保有コスト上昇、さらには割賦販売法改正が車離れに拍車をかける恐れがあり、正味収入保険料の減少、損害率悪化の悪循環につながりかねない。

損保は総じて強固な財務基盤を持ち、金利上昇による恩恵も受けるため事業環境が非常に厳しいというわけではないが、国内損保事業そのものにはこのように閉塞感が漂っている。日本興亜損保の筆頭株主である米系ファンドは株主総会で社長再任に反対票を投じることを表明しており、国内外の損保会社との合併・提携を求めている。1998年の保険料自由化をきっかけに2001?2002年にかけて一気に業界再編が進んだ後、大きな動きのなかった損保業界に小波が立ってきた。

Written by ニアプライム

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