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サブプライムローン問題に関して思うこと -Flying Dog-

2008年04月25日

先日久しぶりに欧州系投資銀行で金利や為替のデリバティブ業務を担当する友人と食事をした。彼は小生が機関投資家に席をおき、資産運用に携わっていたころ金利スワップ取引の指導を受けた恩師であり、10年来のお付き合いをさせていただいている。彼と会うと当然のことながら最近のビジネスの話題から始まり趣味や家族へと話題が展開していく。彼は現在、地方の金融法人をカバーしていて、毎日が地方出張だが「米国国債と証券化商品のシニア部分証券の格付けはなぜ同じAAA(最上級)が付くのか。格付けが同じでもリスクは違うよね」との素朴な疑問をプロの投資家から多く受けるそうだ。という訳で今回はサブプライムローン問題と証券化商品、そして格付けが話題となった。

もちろん、このような疑問に対して格付機関は国債や社債のAAAと証券化商品のAAAは本来同じではなくリスクも異なるし、この事は開示していると反論するだろう。では投資家はその事実を認識していたのだろうか。格付け機関は積極的に誤解がないようなアピールしてきたのか。さらにそれでは何故、そもそも誤解しやすいAAAなどの同じ表記としたのだろう。トリプル☆でも良かったのでは。
一方BISでは資産のリスク掛け目が社債のAAAも証券化商品のAAAも同じとなっている。これだけを見ても投資家が誤解する余地は多かったはず。それを全ては投資家の自己責任と言う事で片付けて良いのだろうか。
そもそも購入した家の価格が値上がりすれば、その時に低金利に組み変えられるという前提で低所得者層の支持を受け米国で広まった高金利の住宅ローンの集団に倒産確率という議論は通用するのだろうか。このような過去の倒産データも米国で住宅価格の右肩上がりの上昇が長く続いた中でのデータが大半であり、このデータを元に計算された倒産確率についてはもっと慎重の判断が必要だったのではないだろうか。

資金調達の世界に証券化という手法が登場してもうずいぶんとなり、書店には当たり前のように証券化の生い立ちや仕組みを説明した専門書が並ぶ。また、証券化ビジネスの発展とともに統計や確率論が勉学の場では注目されるようになっている。証券化による資金調達とは簡単に言えばもともと似通った属性・リスクの債権で集団を作り、その集団の倒産確率を算出、安全な部分、中間的な部分、リスキーな部分に分類して、それぞれに異なる評価(格付け)と金利をつけ、嗜好が異なる投資家に販売し、信用を創造していくことである。しかしこの証券化ビジネスは証券化の対象になる債権の倒産確率が例えば生命保険に用いられる人の死亡率のように長い経験に基づき、安定的で信用できる場合に成り立つような気がしてならない。

米国ではホームエクィティローンなどに代表されるように住宅価値の上昇が新たな信用を創造してきた。日本のバブル崩壊前の土地神話とよく似通っている。
サブプライムローン問題もこの住宅価格上昇を前提とした証券化により信用創造が行われたところに大きな落とし穴があったような気がしている。住宅神話の崩壊が進むと共に、AAAのシニア部分証券に値段が付かなくなった。AAAの債券は最終的には回収できるのかもしれない。だが流動性を失った証券の価値は無いに等しい。今回の件でAAAの威信は地に落ちた。
金融市場には時代の流れと共に、複雑な新しい商品が登場する。皆が参加することに乗り遅れまいとする中、最新の金融工学を駆使したハイブリッドな商品は、不可能を可能にする力があると錯覚する。今回のサブプライム問題は、そもそも返済能力のない人々に、住宅価格が今後も上昇を続けると言うあり得ない前提で貸し込んだ不良住宅債権は、どのような金融工学を駆使してAAA格付けを得ても、不良である実態を変える事は出来なかった事を証明している。
投資とはリスクの本質がどこにあるかをまず自らが見極めることだと思うとともに「君子危うきには近寄らず」という格言を噛み締める今日この頃である。

Written by Flying Dog

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